木村 浩一郎Koichiro Kimura
PwC Japan グループ代表
ブレア・シェパードBlair Sheppard
PwC Global Leader, Strategy and Leadership Development
馬田 隆明 氏Takaaki Umada
東京大学 産学協創推進本部
FoundX ディレクター

2021年09月17日

リーダーシップ

加速する変化と迫るタイムリミット
企業は成功を再定義し、今すぐ行動を
──グローバル メガトレンド フォーラム 2021より

目次

成功を再定義したPwCが新たに掲げる経営ビジョン

PwC Japanグループの代表である木村は、「自社の社会的なインパクトとはどのようなものであるべきか、自分たちはどうありたいのかをしっかりと定義し、新しい成功というゴールに向けて、ギアをシフトして行動し始めなければいけないタイミングとなっています」との認識を示し、PwCも自らがなすべきことを見直し、新たな経営ビジョン「The New Equation」を制定したと明かした。「私たちは、クライアントがTrust(信頼)を構築し、Sustained Outcomes(ゆるぎない成果)を実現できるよう支援していくことにコミットします」(木村)

70年の成功をもたらした要因の限界

新しいゴールを設定し、行動を起こすためには、これまでの軌跡を正確に認識しておく必要がある。企業経営が、テクノロジーや社会状況との関連で変容し、今また潮目の変化を迎えているのと同様に、4つの危機に直面している世界のシステムもまた、歴史への適応を積み重ねてきた結果である。「これまで築き上げたものを全て投げ出すべきではありません」(シェパード)。第二次世界大戦後から70年にわたり、グローバル化、テクノロジーの発展、成果の定量化という3つを柱として、世界規模での再生が成功を収めてきたことは評価されるべきだという。「何十億人もの人々を貧困から救い出し、ほんの数年で、人類史上全体を通じて実現してきた以上のテクノロジーイノベーションを実現し、世界中に巨大な富を生み出しました。そのこと自体には全く問題はなく、素晴らしいモデルです。ただ、シンプルすぎたのです。モデルが極めてシンプルだったため、何度も何度も使いまわされた結果、悪い面が出てきてしまいました」(シェパード)

「新しいモデル」構築の道筋

では、今、何をすべきなのか。「まず、これまでのやり方を見直し、新たなモデルに適した社会システムを作り上げ、グローバルな政治経済における新たな価値観を醸成し、それを牽引していけるリーダーを見出すことです」とシェパードは指摘し、その道筋となる3つのポイントを示した。①力強いローカル経済が存在してこそ強靭なグローバル経済を築くことができるとの考えに立つこと、②新たなテクノロジー開発やイノベーションの過程では、何を実現し、どのような結果を避けるべきかといった観点で社会的な影響をよく検討すること、③成功の尺度をより広義な、より独立性と包摂性の高いものへ定義し直すこと、である。

これらの実行には困難が伴うだろうとシェパードは予測する。実行に残された時間が短いため、走りながら作り、作りながら使いこなすといった取り組みが求められるという。「まず、世界が協力して取り組むべき少数のテーマを特定し、その実現に向けて、社会システムを巻き込み、価値観を作り上げていかなければなりません」(シェパード)。加えて、今立ち向かっている危機に対して、私たちは現状認識や効果測定に必要な物差しを持ち得ていないという難しさもある。「現代社会にテクノロジーが広く浸透したことの主要な影響の一つは、社会における信頼の崩壊と社会の分断だと言えるでしょう。これらに対する指標すらないのです。何を、いかにして測るべきかについて、私たちはこれまで以上に高度な形で考えなければなりません」(シェパード)

PwC Global Leader, Strategy and Leadership Development ブレア・シェパード(中央)

テクノロジーを社会でどう生かすのか

木村は、新たなテクノロジーやイノベーションとその社会的な影響をどのように検討していくかについて、スタートアップ支援を手掛ける馬田氏に見解を求めた。馬田氏は、テクノロジーを社会でどう生かすのかという観点が重要であり、動力源が蒸気から電気に転換したときに産業界で起こったことに、デジタルトランスフォーメーション(DX)を社会に生かすための手がかりがあると述べた。

「蒸気機関の工場では、エンジンで発生させた動力を、ベルトによって工作機械に伝えていました。ただ、摩擦による力のロスが発生するため、大きな工作機械はエンジンの近くに置かなければなりませんでした。これが電気になると、動力源を自由に配置できるようになり、作業順に機械を置けるようになって、作業効率が向上しました。当初、小型化のみがメリットとして見込まれていた電気モーター導入でしたが、実際には、工場のレイアウトの自由度が高まり、それが作業効率の向上につながりました。ベルトに巻き込まれることがなくなって、作業員の安全度も高まるという副次的なメリットも出てきます。さらに効率的な送電が可能になったことで、遠隔地の発電所で生まれた電気を活用できるようになって、蒸気機関のように工場内で動力を生み出さなくてもよくなり、工場の拡大も容易になったのです。電気という新しい技術を活用するには、単に動力源を置き換えるだけでは十分ではなく、工場や社会の仕組み全体の変化が求められたわけです」(馬田氏)

単純に技術の性能を上げていくだけではなく、その技術に関連する仕組みや制度、組織、仕事のやり方などを適切に変えていくことで初めて技術を生かすことが可能になる。これが、蒸気から電気への転換から私たちが得られる教訓である。「現代に当てはめると、DXの推進には、テクノロジーと社会の両輪のイノベーションが必要です」(馬田氏)

東京大学 産学協創推進本部 FoundX ディレクター 馬田隆明氏

未来を提示した、ムーンショットプログラム

馬田氏は続いて、テクノロジーを社会実装していく方法論を披露した。成功したスタートアップやソーシャルセクターで実践されている方法論を生かすことが有効で、その構成要素をまとめたのが下の図である。

テクノロジーの社会実装のための5つの要素

図で起点となるのがデマンド、すなわち課題である。日本のような成熟した社会では課題を発見しづらいため、先にインパクトを示す必要があると馬田氏は指摘する。「良い理想としてのインパクトが示されることで、理想と現状のギャップであるデマンドが生まれます。好例は、米国のケネディ大統領による、1960年代のムーンショットプログラムです。10年で人類を月に送るとの理想を掲げたことで、課題を解決する技術革新が起きました。人を巻き込む理想を示し、背景や思いを理論と言葉で伝え、理想にたどりつくまでの道筋を高解像度で示すことが大切です」(馬田氏)

インパクトの実現を目指す過程の中に、制度の正当性に関する危機を乗り越える糸口が存在すると馬田氏は言う。「公共的にインパクトのあるサービスを実現する道筋をつくる上で、現在の社会に合わなくなった制度や法律をアップデートする局面が生じます。ただし、制度や法律を変えるときは、そこに公共・公益的な“いいこと”があると説明した上で変えていくことが肝要です」(馬田氏)。これは、シェパードが繁栄の危機の一つとして挙げた「世界中で、将来に希望が持てないと考える人が増えています」という現象にもつながる。「社会実装の主役は、あくまでそれを生かす人たちです。受け手側の納得感、腹落ち感を伴ったセンスメイキングが欠かせません。小さな実績で信頼を築き、その信頼を積み重ねていくことが大事なポイントとなってきます。インパクトの提示からセンスメイキングに至る一連の取り組みが、未来を提示する力につながってくると思います」と馬田氏は言う。

他人を巻き込むインパクトを掲げ、行動する

キーノートセッションは、危機を乗り切るリーダーシップに対する期待を込めた、木村の呼びかけで幕を閉じた。「いま求められるのは、一見相反するようなことを兼ね備えた上で戦略から実行までをやり遂げる高度なリーダーシップです。難しくはありますが、不可能なことではなく、成功している人がいらっしゃいます。他人を巻き込むことで、大きなコレクティブインパクトの創出につながっていきます。改めて、行動を起こしていかなければなりません」

グローバル メガトレンド フォーラム 2021の様子
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馬田 隆明 氏の写真
馬田 隆明 氏Takaaki Umada

東京大学 産学協創推進本部
FoundX ディレクター

University of Toronto 卒業後、日本マイクロソフトを経て、2016年から東京大学。同大学では本郷テックガレージの立ち上げと運営を行い、2019年からFoundXディレクターとしてスタートアップの支援とアントレプレナーシップ教育に従事する。スタートアップ向けのスライド、ブログなどで情報提供を行っている。著書に『逆説のスタートアップ思考』『成功する起業家は居場所を選ぶ』『未来を実装する』がある。

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ブレア・シェパードBlair Sheppard

PwC Global Leader, Strategy and Leadership Development

2012年2月より、PwCの戦略およびリーダーシップ開発のグローバルリーダーを務め、PwCネットワークにおける戦略、リーダーシップ、カルチャーの取り組みをリード。リーダーシップ、企業戦略、組織デザイン等の領域で100社以上の企業や政府にアドバイスを提供した経験を有し、50以上の書籍や記事を執筆。デューク大学フュークア・スクール・オブ・ビジネスの名誉教授、名誉学長でもある。

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木村 浩一郎Koichiro Kimura

PwC Japan グループ代表

1963年生まれ。1986年青山監査法人に入所し、プライスウォーターハウス米国法人シカゴ事務所への出向を経て、2000年には中央青山監査法人の代表社員に就任。2016年7月よりPwC Japanグループ代表、2019年7月よりPwCアジアパシフィック バイスチェアマンも務める。

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