木村 浩一郎Koichiro Kimura
PwC Japan グループ代表
ブレア・シェパードBlair Sheppard
PwC Global Leader, Strategy and Leadership Development
馬田 隆明 氏Takaaki Umada
東京大学 産学協創推進本部
FoundX ディレクター

2021年09月17日

リーダーシップ

加速する変化と迫るタイムリミット
企業は成功を再定義し、今すぐ行動を
──グローバル メガトレンド フォーラム 2021より

2021年7月1日から2日間にわたって開催された「グローバル メガトレンド フォーラム 2021」のキーノートセッションは、PwC Japanグループ代表・木村浩一郎がモデレーターを務め、パネリストに東京大学産学協創推進本部でスタートアップを支援している馬田隆明氏を迎えて、PwCのグローバルリーダーシップチームのメンバーとして戦略とリーダーシップ開発の責任者を務めるブレア・シェパードとともに、新たな未来に踏み出すキックオフを行った。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大が浮き彫りにしたグローバルシステムの危機について、その輪郭と構造を明らかにした後、成功を再定義することの必要性を共有し、新たな成功を目指して行動を起こす大きな転換期に企業が果たすべき役割などについて意見を交わした。

目次

世界を変容する流れ、「ADAPT」

キーノートセッションはまず、COVID-19の拡大に伴って明らかになったグローバルシステムの限界に焦点を当てる、ブレア・シェパードのコメントで幕を開けた。世界の全階層に「痛切な懸念」(シェパード)が存在し、その内容はADAPTという枠組みで整理できると紹介した。Asymmetry(非対称性=貧富の差や世代間、地域間の差の拡大)、Disruption(破壊的な変化=テクノロジーの広がりとそれが個人、社会や環境に与える影響)、Age(人口動態がビジネスや社会、経済に与える影響)、国や社会の間のPolarisation(分断)とそれに伴う地政学的秩序のゆらぎ、そして社会におけるTrust(信頼)の低下である。

ADAPT

世界が直面する4つの危機

ADAPTは世界60カ国でリーダーや市民に対して実施したヒアリングから導き出された。シェパードはさらにこれを14カ国での調査で深堀りし、これらの懸念はより切迫した「危機」に集約されるとしている。それが下図に示した4つの危機であり、COVID-19の拡大によってそれらの危機が加速していると警鐘を鳴らした。

世界が直面する4つの危機

シェパードが最初に挙げたのは繁栄の危機である。「世界中で、将来に希望が持てないと考える人が増えています。未来に希望が持てない状況では、人々は投資をやめ、クリエイティブな創造活動をやめ、挑戦することをやめてしまいます」と話し、結果として社会全体の活気が失われ、繁栄の実現が危機にさらされていると説いた。また、産業や社会に多くの便益をもたらしたテクノロジーも、思わぬ形で世界に影響を及ぼし、これが2つ目の危機となっている。社会のあらゆるところにテクノロジーが組み込まれ、利用されることで、二酸化炭素の排出量が増え、深刻な気候変動を招いている。しかも、「プラットフォームテクノロジーは勝者独り勝ちの性質を持つため、富の格差拡大が急速に進んでいます」(シェパード)

教育や警察、法制度といった、組織や社会システムに対する信頼も低下している。これが3つ目の危機である。「社会に変化をもたらすテコとなるべきこれらのシステムへの信頼がない状態で、どのように、最初の2つの危機と向き合い、世界を変革させていけるでしょうか」とシェパードは問い、さらなる危機を示した。「これまで述べた問題に立ち向かうために、リーダーには、これまでのような単純で画一的な価値観に基づく指導力ではなく、矛盾し合うさまざまな事柄にうまく対処することが求められますが、これは誰にでもできることではありません。テクノロジーに精通しつつ、人間の性質を深く理解するヒューマニストでなくてはなりませんが、これらを兼ね備えた人は多くありません」(シェパード)

解決に残された時間はたった10年

4つの危機を説明する過程で、シェパードは、個々の問題がいかに切迫しているかを強調し、対応の遅さを憂いた。気候変動一つ取ってみても、解決に残された時間は「あと10年しかないのです」(シェパード)。各国政府は問題に立ち向かう準備が十分とはいえず、社会システムはそれ自体が変化を求められている。そのような状況で、変化の担い手として、企業に期待を寄せる。「私たちが問題に対してうまく対処することができれば、この世界は素晴らしいものになるのです。重要なのは、とにかく動き始めることです」(シェパード)

ここでモデレーターを務める木村浩一郎が、「地政学、あるいは、経済に直結しているという意味で最近用いられる“地経学”的なコンテクストも、日本から見たときには複雑性を増す要因になっていると思います」と、地理的にも経済面でも米中両国と深い関わりを持つ日本の立場からこの問題を捉える上での視座を提供した。

PwC Japan グループ代表 木村浩一郎

優れた社会的インパクトが、変数多き時代の求心力に

シェパードが主要な変革の担い手として期待を寄せた企業もまた、テクノロジーを取り入れながら、経営の形を変化させてきた。東京大学でスタートアップ支援を手掛ける馬田隆明氏によると、「経営戦略=事業戦略」の時代が1990年代まで続いた後、グローバリゼーションが進んで金融経済が発達し、資本政策と事業戦略との融合が起こった。そして日本では、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が、国連提唱のもと発足したESG投資の世界的なイニシアティブである責任投資原則(PRI)に署名した2015年以降は、社会的・公共的なインパクトを持つ企業に資金が集まるようになっているという。CSV経営を実践しSDGsに貢献する企業に対するESG投資がその典型である。「公共的なミッションを持つ事業に政策的な資金を流すミッションエコノミーの動きも強くなってきています。CSV経営とESG投資、ミッションエコノミーが合流したインパクトと、資本政策、事業戦略を合わせたところにこれからの経営戦略があると見ています」(馬田氏)

馬田氏は、優れた社会的インパクトを示す企業やリーダーには資金だけでなく、人材、顧客、パートナーが集まる時代が到来していると語り、その背景をこのように読み解いた。「4つの危機や地政・地経学的な不確実性など、不安や変数が多数存在し、社会が変わっていく状況だからこそ、何を大切にして、何を求め、どこに向かっていくのかを明確にした優れたインパクトの提示が、“変わらない地盤”として大事になってきています」(馬田氏)

インパクトは経営戦略に大きな影響を与えるように
  • 1
  • 2
馬田 隆明 氏の写真
馬田 隆明 氏Takaaki Umada

東京大学 産学協創推進本部
FoundX ディレクター

University of Toronto 卒業後、日本マイクロソフトを経て、2016年から東京大学。同大学では本郷テックガレージの立ち上げと運営を行い、2019年からFoundXディレクターとしてスタートアップの支援とアントレプレナーシップ教育に従事する。スタートアップ向けのスライド、ブログなどで情報提供を行っている。著書に『逆説のスタートアップ思考』『成功する起業家は居場所を選ぶ』『未来を実装する』がある。

ブレア・シェパードの写真
ブレア・シェパードBlair Sheppard

PwC Global Leader, Strategy and Leadership Development

2012年2月より、PwCの戦略およびリーダーシップ開発のグローバルリーダーを務め、PwCネットワークにおける戦略、リーダーシップ、カルチャーの取り組みをリード。リーダーシップ、企業戦略、組織デザイン等の領域で100社以上の企業や政府にアドバイスを提供した経験を有し、50以上の書籍や記事を執筆。デューク大学フュークア・スクール・オブ・ビジネスの名誉教授、名誉学長でもある。

木村 浩一郎の写真
木村 浩一郎Koichiro Kimura

PwC Japan グループ代表

1963年生まれ。1986年青山監査法人に入所し、プライスウォーターハウス米国法人シカゴ事務所への出向を経て、2000年には中央青山監査法人の代表社員に就任。2016年7月よりPwC Japanグループ代表、2019年7月よりPwCアジアパシフィック バイスチェアマンも務める。

トレンドタグ

タグ一覧

Follow us