パートナーシップで目標を達成しよう
小谷 真生子 氏Maoko Kotani
経済キャスター
木村 浩一郎Koichiro Kimura
PwC Japan グループ代表

2021年05月17日

SDGs

SDGs

SDGsの道しるべ
パートナーシップで切り拓くサステナブルな未来

前編小谷真生子氏×木村浩一郎対談 ESG投資が後押しする
SDGsへの取り組み
真のインパクト創出には何が必要か

SDGs達成に向けた取り組みは、人類全体が進むべき道を探りながら歩んでいく長い旅路です。持続可能な成長を実現するためには、多くの企業や組織、個人が連携しながら変革を起こしていく必要があります。対談シリーズ「SDGsの道しるべ」では、PwC Japanのプロフェッショナルと各界の有識者やパイオニアが、SDGs17の目標それぞれの現状と課題を語り合い、ともに目指すサステナブルな未来への道のりを探っていきます。

シリーズ第1回は経済キャスターの小谷真生子氏をお迎えし、PwC Japanグループ代表の木村浩一郎とSDGsの現在地を探るとともに、PwCがSDGs達成において果たす役割を明らかにしていきます。前編では、加速するビジネス環境の変化とESG(環境・社会・ガバナンス)投資の潮流の中で、企業はSDGsにどう向き合っていくべきかを議論しました。

目次

変化の激しい時代に企業はどう対峙すべきか

小谷氏
小谷氏

SDGsの達成を目指す2030年まで、あと10年を切りました。SDGsをテーマにしたテレビ番組を担当する中で経営者や各界のリーダーにお話をうかがっていると、ここへきて多くの企業が自社の存続と成長への危機感からSDGsに本格的に取り組み始めていることを実感します。その背景には、近年の企業を取り巻く事業環境の激変があるのではないでしょうか。

確かに、ビジネスを含めた社会は大きな変化の渦中にあるといえます。PwCは、そうした変化の中で世界が直面する5つの喫緊な課題とその影響を「ADAPT」というフレームワークで整理しています。A(Asymmetry:非対称性)は偏向性や偏りを意味しており、貧富の差が個人レベルで拡大し、ビジネスにおいても、ベンチャー企業が多く誕生する一方で「winner takes all」に象徴される二極化が進み、中間層が衰退するといった変化を表します。D(Disruption:破壊的な変化)は、産業の境界がなくなり新たなビジネスモデルが現れてくることを意味しています。3つ目のA(Age:人口動態)は、高齢化などにより人口構成が変化することで生じるインパクトを、P(Polarisation:分断)は、世界が分断し、コンセンサスを取りにくくなることを表します。そして、最後のT(Trust:信頼)は、社会を支えるさまざまな仕組みに対する信頼の低下が混沌をもたらす現状を示しています。PwCはこのADAPTを新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック以前から提唱していたのですが、COVID-19によってこうした変化がより劇的に加速していると感じます。

木村
木村
ADAPT
小谷氏
小谷氏

現代の経済、政治、社会の多様な変化を的確に整理されていますね。ただ、ADAPTが示す課題は、複雑で多面的です。それだけに、企業はそれらの課題にどのように対応すればよいのか分からないのではないでしょうか。

まさにそのとおりで、経営者からは、「やるべきことが多く、どこから手を付けてよいのか分からない」「変化が速く、あらゆることを並行して動かさなくてはならないため、さまざまな矛盾が生じている」といった声が聞かれます。これに対しても、私たちは「4つのR」、すなわち「Repair(修復)」「Rethink(再考)」「Reconfigure(再設定)」「Report(報告)」が必要であると整理し、指針を示しています。ADAPTのような複雑な課題に向き合うためには、足元の状況を修復するのみならず、自社のパーパス(存在意義)にまで立ち返って問題を根底から考え直し、それを踏まえて事業のポートフォリオやテクノロジーのプラットフォームを改めて設定し直さなければなりません。加えて、そのプロセスや結果についてステークホルダーにしっかりと開示し、対話をすることも重要です。

木村
木村

ステークホルダー資本主義とESG投資がSDGsへの取り組みを加速する

小谷氏
小谷氏

2020年1月のダボス会議の重点テーマの1つは「ステークホルダー資本主義」でした。これは株主の利益を第一とすべしという株主資本主義とは一線を画し、従業員や取引先、顧客、地域社会といった多様なステークホルダーの利益に配慮すべきという考え方です。そうした中で、今おっしゃったようなステークホルダーとの対話の重要性は確かに高まっていますね。

そうですね。再考・再設定といった大きな取り組みは、自社だけで可能なことばかりではありません。社内の従業員を含め、幅広いステークホルダーと対話し、共感を得なければ進められないでしょう。

木村
木村
小谷氏
小谷氏

2022年に実施される東京証券取引所(以下、東証)の再編も、ステークホルダー資本主義につながる動きの1つといえます。東証は、従来の一部、二部、JASDAQ、マザーズから「プライム」「スタンダード」「グロース」に市場区分を再編するにあたって、株式の流動性についてより高い基準を設けており、上場を維持するためには従来の親会社やメインバンクなどによる株式の持ち合いが難しくなるため、個人株主を含むより幅広いステークホルダーの意向を反映する必要性が出てくるでしょう。また、上場基準にESG関連の項目を含む改訂コーポレートガバナンス・コードの適用を求めていることから、企業経営に大きなインパクトを与えることが予想されます。これまで環境や社会の課題については、ともすれば「体力のある企業が取り組めばいい」という意識があったように思いますが、ESGに取り組まなければ資金調達ができないとなれば、状況は大きく変わってくるのではないでしょうか。

世界のESG投資残高は2018年に約31兆ドルまで拡大し、2012年比で230%も増加しています。ESGをおろそかにしたままでは、日本には投資先がなくなってしまうというおそれもありますから、東証の再編の背景にはそうした危機感もあるのかもしれません。PwCはSDGsが策定される以前からサステナビリティに関する企業支援をグローバルで行っていましたが、正直なところ当初はさほど大きなビジネスではありませんでした。ここ数年、ESGの取り組みが環境や社会だけでなく企業自体のサステナビリティを左右するという認識が広がったことで、一気に注目度が上がったと感じますね。

木村
木村
対談風景の写真

ESGを企業価値向上にどうつなげるか

小谷氏
小谷氏

ESG投資のリターンを数値化する指標なども開発されつつあるようですね。

ただ、SDGsが15年単位の目標であることを考えても、こうした取り組みは短期的に実績が出るわけではありませんから、既存の財務指標に匹敵するような比較可能性が高く十分に定量化された指標が浸透するにはまだ時間がかかるでしょうね。

木村
木村
小谷氏
小谷氏

では、企業は市場やステークホルダーに向けてどのような発信をしていけばよいでしょうか。

単にフィランソロピーとしてSDGsの達成を目指しますというのではなく、ESGへの取り組みが本業とどうつながり、企業価値の向上にどう寄与しているかまで見せることが重要だと思います。

木村
木村
小谷氏
小谷氏

実際にそのような本業とつながる取り組みはどれだけ進んでいると思われますか。例えば、現在多くの企業がネットゼロへのコミットメントを表明していますが、PwCはそうした企業への支援も行っていますね。

はい。PwC Japanグループとしては、まずは企業が現状を把握するための仕組みや、その情報が正確かつタイムリーに報告されるガバナンスの構築といったところから支援をしています。その部分の信頼性を担保した上で、どのような方法で排出量削減ができるのか、どれだけのコストがかかるのかを検討し、企業価値向上への戦略を立案して、変革を実行し、ステークホルダーと対話するといった一連の行動がしっかり行われるよう支援することになります。今のところ、各社の進捗はまちまちです。

木村
木村
小谷氏
小谷氏

そう簡単に進むものではありませんよね。

そうですね。単に自社の排出量を削減すれば済むのではなく、製品の製造時や、エンドユーザーによる使用時の排出量まで含めて考えなければ、ネットゼロは実現できません。それだけ広範な全体像を描きながら実践につなげられている企業は、まだ多くはないでしょう。やはり先ほどお話しした「4つのR」のような根本的な取り組みと、幅広いステークホルダーとの連携が求められますね。

木村
木村

個々のエンゲージメントの集積がコレクティブインパクトを生み出す

小谷氏
小谷氏

SDGsのように大きな目標を企業として達成していくには、そこに関わる個々人の意識も重要なのではないかと考えています。従業員一人ひとりが重要な課題と認識して取り組まなければ、企業としてのインパクトにつなげるのは難しいのではないでしょうか。

確かに、従業員のエンゲージメントは非常に大切だと思います。特に日本企業がグローバル展開をする際には、企業理念や綱領といったものを世界中の従業員が理解し、それを本当に自分のものとしてコミットすることが肝要ですが、これは大きなチャレンジです。
さらに、課題解決に向けた幅広い連携が求められる中では、従業員だけでなくさまざまなステークホルダーも巻き込んでいかなければなりません。例えばスマートシティというテーマで考えると、自治体をはじめ異なる分野の多くのプレーヤーが関与するほか、そこで生活する市民一人ひとりがステークホルダーとなります。そうした個人も含めて全員が課題を共有し、エンゲージして初めて、個別の取り組みでは実現できない「コレクティブインパクト」を生み出すことができます。SDGsの達成にはこうしたコレクティブインパクトが不可欠です。

木村
木村
小谷氏
小谷氏

なるほど。点ではなく面で動かしていくイメージですね。

そうです。社会情勢やビジネス環境、テクノロジーがこれほど目まぐるしく変化する時代には、これまでのように現状を踏まえて今後向かうべき姿を定義するといった直線的な考え方では対応できません。理想とする未来を描き、その実現に必要な変革を複合的に起こしていく必要があります。ただ、その過程では現状を変えることで不利益を被る人や企業も出てくるでしょう。フードロスや衣料品ロスなどの背景にある大量生産・大量消費・大量廃棄という問題を例に取れば、単純に「大量生産をやめよう」と言っても、一部の企業にとっては存続を左右する重大な経営課題であり、簡単に対処できるものではないですよね。

木村
木村
小谷氏
小谷氏

利害関係が異なるプレーヤーも巻き込まなければならない、と。

ステークホルダーの数が増えれば、それぞれの価値観や立場も異なってきますし、これまで関わったことのない人たちとの連携が求められることもあります。プロフェッショナルサービスファームとして多くの分野の企業・組織と多様な関係性を築いてきたPwCとしては、そうした連携をオーケストレーションするような役割が果たせるのではないかと考えています。

木村
木村

※出典:GLOBAL SUSTAINABLE INVESTMENT ALLIANCE「2018 GLOBAL SUSTAINABLE INVESTMENT REVIEW」

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小谷真生子氏×木村浩一郎対談【後編】多様性が生むイノベーションと共感がSDGs達成に向けたドライバーとなる

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小谷真生子氏×木村浩一郎対談【後編】多様性が生むイノベーションと共感がSDGs達成に向けたドライバーとなる

小谷 真生子 氏の写真
小谷 真生子 氏Maoko Kotani

経済キャスター

1965年大阪府生まれ。航空会社を経てニュースキャスターとなり、1998年から約16年間、テレビ東京の「ワールドビジネスサテライト(WBS)」のメインキャスターを務めた。2020年3月から5回にわたって放映されたBSテレ東開局20周年特別企画「SDGsが変えるミライ~小谷真生子の地球大調査~」では、さまざまな角度からの取材を通じてSDGs実現のために日本が果たすべき役割を探った。

木村 浩一郎の写真
木村 浩一郎Koichiro Kimura

PwC Japan グループ代表

1963年生まれ。1986年青山監査法人に入所し、プライスウォーターハウス米国法人シカゴ事務所への出向を経て、2000年には中央青山監査法人の代表社員に就任。2016年7月よりPwC Japanグループ代表、2019年7月よりPwCアジアパシフィック バイスチェアマンも務める。

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