アルバート・ブーラ 氏Albert Bourla
ファイザー会長兼CEO

2021年03月29日

リーダーシップ

Inside the Mind of the CEO

後編ファイザーCEO アルバート・ブーラ氏 人々の命を守るブレークスルーを生み出し続けたい

本記事は、PwCグローバルネットワークのメンバーファーム数社で発行する「strategy+business」に掲載された記事の抄訳です。原文はこちらからご覧ください(※)。

インタビュアー:ダニエル・グロス(「strategy+business」編集長)、ロン・チョプーリアン(PwC米国パートナー、PwCグローバルヘルス産業部門リーダー)
写真:Steven Ferdman, Getty Images

インタビューシリーズ「Inside the Mind of the CEO」では、世界各国の企業のCEOにお話をうかがい、不確実性の時代にCEOが重要な意思決定にどう向き合っているのかを探っていきます。
PwCが世界のCEOを対象に実施している「世界CEO意識調査」もあわせてご参照ください。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン開発で世界から注目を集めるファイザーの会長兼CEO、アルバート・ブーラ氏のインタビュー後半では、データの重要性やこれからの製薬業界の課題について聞きました。

目次

効果や安全性を納得してもらえるだけのデータが必要

──COVID-19ワクチンの接種に懐疑的な人もいるようですが、政府や企業がワクチン接種を奨励するためには、どのような方法が最も効果的だとお考えでしょうか。

ブーラ:まず現在の状況についてお話しすると、当初はワクチンに対して懐疑的だった方がかなり多くいらっしゃいましたが、今では次第に減ってきています。これにはいくつかの理由があります。第一の理由は、世界各国の複数の規制当局がファイザーのワクチンを承認したことです。

加えて、最初のうちは大きな混乱がありましたから、ワクチンに対して懐疑的だったのは無理もありません。しかも残念なことに、マスク着用と同じように、ワクチンは政治問題化しました。マスクもワクチンも人々を守るためのものです。だからこそ、製薬業界が解決策をもたらそうと力強く立ち上がったのであり、同時に、物事が適切に進むよう規制機関などが監督しているのです。

すでに国によってはインセンティブを提供して国民にワクチン接種を奨励していますが、これは大きな成果を上げています。例えば、ワクチンを接種した人には自由に国外に行くことを認め、帰国後の自主隔離も免除するといった方法です。一方、これが新しいワクチンであることを考えると、接種を強制したり、接種しない人への罰則を設けたりするのは有効ではないと思います。ワクチンを接種すると実際にどれくらい感染を予防できるのか、あるいはワクチンを接種しないとどれくらいの人が感染し死亡に至るのかといったデータがもっと蓄積されないと、人々は納得しないでしょう。

ですから、できるだけ多くの人にワクチンを接種してもらって、最も懐疑的な人さえも説得できるだけのデータを集めなければなりません。その次に必要なのは、ワクチン接種の強制ではなく、ワクチンに関する啓発活動です。それでも、懐疑的な人は最後まである程度はいるでしょう。どんなワクチンについてもそのような傾向はあります。私たちが理解を促さなければいけないのは、ワクチンを接種しないという判断は当人だけに影響が及ぶものではないということです。それは社会に影響を及ぼす判断であり、自分の家族など大切な人に影響が及ぶ判断なのです。ワクチンを接種しなかった人は、ウイルスの増殖を許す脆弱性になってしまうということを理解してもらわなければなりません。

──ワクチンの影響の把握に対しては、データやアナリティクスをどのように活用する計画でしょうか。

ブーラ:当社は世界中を網羅するネットワークによって、ワクチンの効果だけでなく、ウイルスの変異株の性質やそれに対するワクチンの反応まで調査することができます。まもなく多くの保健機関が、各製薬会社のワクチンの実際の作用に関するデータを生成し始めるでしょう。今朝、私はイスラエルから受け取ったデータを確認していました。イスラエルは人口が比較的少なく、高度な医療能力を備え、人口の99.5%にデジタルカルテが導入されているため、分析のモデルとするのに適した国です。当社はイスラエルと契約を締結しており、情報にアクセスすることができます。今後、共同でデータを公表する予定ですので(訳注:2021年2月に公表済み)、ワクチン接種が健康と経済に与え得る影響を世界が確かめることになるでしょう。

重圧の中で学んだ新たなリーダーシップ

──COVID-19への対応を経て、ファイザーという大組織を統率するご自身の手法は変わりましたか。

ブーラ:間違いなくとても変わりました。リモートワークの方法を学んだこともその1つですが、私には、そしてファイザーの社員には、COVID-19対策への貢献という使命があるため、リモートワークは全体的な変化の中のごく一部に過ぎませんでした。ワクチンは何十億もの人々、何百万もの企業、何百もの政府に希望をもたらすものです。その開発競争をリードする企業を統率する立場にあるということは、それだけで相当な重圧を背負うことになります。ですから、これまでとは全く違うやり方で指導力を発揮する必要があるのです。多くの難題が潜む政治的状況、米国の大統領選挙、世界中の政界リーダーとの対話にもうまく対処することが求められました。昨年はCEOに就任してまだ2年目でしたが、確実に成長の機会が得られたと思います。

──今回の経験から、私たちは予測の無意味さを学んだように思います。このような環境下において、ご自身は予測というものをどのように捉えていらっしゃいますか。

ブーラ:中長期の予測というものは総じてきわめて疑わしいと思っています。先を見通すにあたっては、まずシナリオを作成し、状況の変化に応じて機敏に動ける組織を築くことが大切です。非常に精緻な予測を立て、その予測にのみ対応するように組織を作ってしまうと、うまくいかない可能性が高いでしょう。まず必要なのはシナリオの策定です。次に、実現可能性が最も高いシナリオを示す主要指標を用意します。そして、事態が動いた際にどうすべきかをあらかじめ考えておき、その後は状況をモニタリングしていかなければなりません。

科学の力で社会に信頼される企業へ

──COVID-19は多くの産業に影響を与えましたが、その影響の1つは未来の社会が一足飛びに訪れたことだと言えると思います。広く医療の分野を見てみると、遠隔医療を含め、デジタル化が大きく加速しました。ファイザーとしては、広告・販売戦略を変える必要があると考えていらっしゃいますか。

ブーラ:もちろん、そう考えています。現在、営業担当者を対象にした実験を行っています。ちょうどワクチンの治験と同じように、営業担当者を100人ずつ、いわゆる「治療群」と「プラセボ群」に分け、一方には新しいデジタル手法を、もう一方には従来どおりの手法で営業を行ってもらうのです。そして医師と医療機関それぞれの満足度を測定します。この実験は今後も継続するつもりです。医薬情報担当者(MR)と医師・医療機関との関係づくりや信頼構築は大変重要です。デジタルツールを使うことで、そのための情報のやりとりが大幅に改善すると見ています。

──ファイザーはこの数年、いくつかの大型事業買収を行いながら変革を推進してきました。今後5年間を見据えた新生ファイザーの次の計画はどのようなものでしょうか。

ブーラ:まずはさまざまな変革を盤石なものにし、当社の企業目的を確実に達成しなければなりません。患者さんの命を守るブレークスルーをもっと生み出す必要があります。COVID-19ワクチンはその一例にすぎません。現在も、代謝性疾患や循環器疾患、感染症、希少疾患、ガンの分野で多くの研究開発を行っています。

ワクチン開発チームの経験は社員に大きな刺激を与えました。社員はみなきわめて優秀で、ワクチン開発チームと同じような感動が得られるブレークスルーを生み出したいと考えています。これは止めようのない力だと思います。この力は他の分野でも多くの進歩を生み出し、2025年までに25のブレークスルーを生み出すという当社の目標達成に向けた大きな原動力になるでしょう。ただ同時に、これまで守ってきた価値観も維持していかなければなりません。今後も「勇気」を大切にし、業務における「卓越」を実現し、社会における自分たちの役割を誇りとして仕事を進め、それを「喜び」とする企業文化を持ち続けていきます。

──先頃、企業ロゴを丸薬の形から二重らせんのものへと刷新されましたね。70年以上もファイザーの顔であったロゴを変更した理由をお聞かせいただけますか。

ブーラ:ロゴの変更には、COVID-19以前から取りかかっていました。今につながるファイザーの輝かしい歴史を残したかったので社名のフォントは変えませんでしたが、ファイザーの変革を推進する中で、いくつもの事業を手がける複合企業ではなく科学だけに注力する企業となることを想定したため、象徴的な意味で丸薬からは離れ、二重らせんを加えて2つのことを表現しました。1つはもちろんDNAらせんから思い浮かぶ最先端科学です。そしてもう1つが患者さんとファイザーの関係です。まるで互いに手を取り合っているようでしょう。

──ファイザーを含めて、製薬業界は業界のイメージや社会で果たす役割を変えるべき時期に来ているのでしょうか。それとも、良い製品を生み出せば自ずと分かってもらえるのでしょうか。

ブーラ:いいえ、良い製品を出しさえすればよいとは全く考えていません。私たちから社会に向けて発信していく必要があると思っています。COVID-19がきっかけとなって製薬業界に対する信頼は高まりました。しかし、この状況に慢心してはいけないのです。高い評価をどれだけ保てるかは分かりませんし、これまでのようなコミュニケーションの仕方に戻せば評判はまた落ちてしまうでしょう。ですから、私たちが患者さんを第一に考え、科学を重視する業界であること、そして社会に必要とされていることを、言葉と行動をもって確実に伝え続けていかなければなりません。そのために私たちは人々の考えを変えるような治療薬を開発するとともに、業界内の不適切な行いを排除して、信頼を守り抜くつもりです。

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アルバート・ブーラ氏【前編】迅速なワクチン開発を可能にした変革と企業文化

※strategy+business からの転載記事はPwCネットワークのメンバーファームの見解を示すものではなく、記事中での出版物・製品・サービスへの言及には推奨の意図はありません。

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