アルバート・ブーラ 氏 Albert Bourla
ファイザー会長兼CEO

2021年03月23日

リーダーシップ

Inside the Mind of the CEO

前編ファイザーCEO アルバート・ブーラ氏 迅速なワクチン開発を可能にした変革と企業文化

本記事は、PwCグローバルネットワークのメンバーファーム数社で発行する「strategy+business」に掲載された記事の抄訳です。原文はこちらからご覧ください(※)。

インタビュアー:ダニエル・グロス(「strategy+business」編集長)、ロン・チョプーリアン(PwC米国パートナー、PwCグローバルヘルス産業部門リーダー)
写真:Steven Ferdman, Getty Images

インタビューシリーズ「Inside the Mind of the CEO」では、世界各国の企業のCEOにお話をうかがい、不確実性の時代にCEOが重要な意思決定にどう向き合っているのかを探っていきます。
PwCが世界のCEOを対象に実施している「世界CEO意識調査」もあわせてご参照ください。

今回は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン開発で世界から注目を集めるファイザーの会長兼CEO、アルバート・ブーラ氏に、ワクチンの開発から供給までを異例の短期間で実現できた背景や、それを支えた同社の企業文化について聞きました。

目次

獣医師からCEOへ バイオ医薬品への注力でブランドを再構築

COVID-19の拡大が始まったのは、ブーラ氏がファイザーのCEOに就任して1年が過ぎたころでした。ギリシャで生まれ、教育を受けたブーラ氏はファイザー勤続27年のベテランです。獣医師の資格を持ち、アニマルヘルス事業部門内で上位職まで昇進を続けた後、ワクチン、オンコロジー、消費財などのさまざまな事業部門を指揮し、2018年に最高執行責任者(COO)に就任しました。その後2019年1月1日付で正式にCEOに就任すると、ファイザーが目指すバイオ医薬品専業企業への転換に力を入れ、一般用医薬品や非感染性疾患領域の治療薬を取り扱う事業部門の統合・分社化を進めるとともに、人類に役立つ科学的なブレークスルーを生み出すという伝統に焦点を当て、170年以上の歴史を誇るファイザーのブランドを再構築しました。ブーラ氏の就任から1年余りが過ぎたころ、ファイザーはBioNTechと共同でCOVID-19ワクチンの開発に乗り出し、2020年12月には主要ワクチンの中で初めて緊急使用が承認されました。

今回のワクチン開発の「奇跡」は幸運のたまものではないと言うブーラ氏。では、それを可能にした要因は何だったのでしょうか。その背景を探るべく、ファイザーの企業文化や働き方についてうかがいました。

社会に解決策を提供するための変革と、それを可能にした企業文化

──ファイザーのCEOに就任し、「患者さんの生活を大きく変えるブレークスルーを生み出す」ことに力を入れるバイオ医薬品専業企業になる道を歩み出した時点で、ファイザーがパンデミックの収束に寄与するワクチン開発で初の承認企業になるということは想像できていたでしょうか。

ブーラ:これほどまでに感染が拡大するとは想像していませんでしたが、ファイザーが変革を推進することの意義は、このような事態が起きた場合に解決策を提供できる企業としての地位を築くことにあります。また、COVID-19ほど緊急ではないかもしれませんが、ガン、その他の感染症、疼痛、希少疾患など、やはり社会の負担となる事態が起きた場合も同じです。こうした事態を解決するには、分子の設計、薬の開発・製造、患者への供給を実現できることが求められます。

──短期間でワクチンを供給するためには、患者の安全と科学的な厳密さを損なうことなく、最大限のスピードと緊急性をもって開発を進める必要があります。この相いれない要件を両立させることができた背景には、どのような企業文化があったのでしょうか。

ブーラ:私たちは、動きが速いことで知られるバイオテック企業やベンチャー企業以上に迅速に動き出すことができました。私はこれを何よりも誇りに思っています。こうした組織を築くことは私の長年の夢でしたが、その始まりは事業再編に取り組んだときにさかのぼります。まず社内に明確に伝えたのは、資金が必要ならば、成果を出さなければならないということでした。私はよくこう言っていました。「ここは資金を巡って競い合う場です。皆さんは提案をし、私は資金を出します。ただし、私への提案は、たとえその薬を必要とする患者さんの集団が小さかったとしても、その時点での標準治療を大きく改善し、重要な影響をもたらし得る医薬品でなければなりません」。今回のワクチン開発は、重要な影響という点でまさにそれに当てはまるプロジェクトでした。BioNTechとの共同開発は、私ではなく、当社の最高科学責任者、最高開発責任者、ワクチン研究グローバル責任者が発案し、承認しました。それができたのは、すでに数年にわたって分散型の経営手法の下で事業を行う経験を積んでいたからです。

──ファイザーの企業目的は、思い切った行動と大胆な発想を中心に据え、「勇気」「卓越」「公平」「喜び」という大きな広がりのある価値観を重視しています。これらの価値観は、製薬会社という組織の中でどのように展開されているのでしょうか。

ブーラ:社員はみな、正しい企業文化があってこそ、現在推進している変革が成功すると考えています。しかもその企業文化はファイザー固有のものでなければなりません。名門ビジネススクールに行って、「お手本にしたいので、どの企業の文化がベストか教えていただけませんか」と聞くわけにはいかないのです。優れた企業文化は必ず、その企業が事業展開する産業の特定のニーズとタイミングに合致している必要があります。タイミングといっても、1年単位の話ではありません。次の10年の課題と機会は何なのかを考えるとともに、これまでに築き上げてきたものも考慮する必要があります。

企業文化の大切な構成要素である「勇気」については、「大胆に発想する」ことであると明確に定義しています。物事が正しい方向に進まなかったときには、率直に声を上げて指摘します。「卓越」は、業務の遂行において卓越性を発揮することです。「公平」は当初は企業文化の中で特に理解されにくい価値観でしたが、現在は理解が深まっています。当社のDNAの中には、誰もが存在を認められ、意見を聞いてもらい、大切にされる資格があるという理念が浸透しています。これは国の豊かさや貧しさとは関係なく、米国であろうとカナダであろうと、欧州や中東の国々であろうと同様です。どうやって全員に確実に手段を与えるかという問題なのです。そして最後が「喜び」です。私たちは真剣に仕事に取り組んでいますが、「患者さんの生活を大きく変えるブレークスルーを生み出す」ことに大きな喜びも見いだしています。

テクノロジーを活用した新しい働き方へ

──ワクチンがフェーズ1、フェーズ2、フェーズ3とFDA(米国食品医薬品局)の審査を通過するのを、世界が待ち望んでいました。開発を急がなければならない緊急性と、適切なプロトコルを経て科学と開発プロセスの厳密さを担保する必要性とを両立させるのは、至難の業だったのではないでしょうか。

ブーラ:いえ、私たちには創業以来170年以上の歴史がありますから、私たちに求められているのはワクチンの安全性と有効性の証明であるということは明白でした。長年にわたって築き上げてきたブランドへの信頼を自ら危険にさらすようなことはしません。また、規制当局からの助言にはどんなものであっても従うということも明確に打ち出しました。では、こうした制約がある中でより速く開発を進めるためには、これまでとはどうやり方を変えればよいのか──そこは至難の業でした。実際、社員はこれまでとは全く違った方法で開発に取り組みました。

──開発は、多くの社員が初めてリモートワークを求められる中で進められたわけですね。薬剤の研究や試験のように共同での作業が必要な企業の場合、同僚と自由に直接会えない状況は、かなりの困難をもたらしたのではないでしょうか。

ブーラ:私だけでなくあらゆる企業の経営者にとって、さらには世界中のあらゆる組織にとって、これはとてつもなく大きな実験となったわけですが、これまでのところ生産性の向上という点では成功していると言えます。もし去年の2月に誰かが私のところにやってきて、「いい考えを思いついたんですが、社員を全員在宅勤務にして、どうなるか様子を見てはどうでしょう」と提案したら、「何を言ってるんだ」と即座に一蹴したことでしょう。ところがある日突然、そうせざるを得ない状況になったのです。そして、意外にもうまくいくということが分かりました。

同僚と直接会うことはとても大切です。しかし、テクノロジーを利用して同じ体験ができるのであれば、毎日直接会う必要はなくなります。どの企業も自社に最適な方法を見つける必要がありますし、他より上手に対処する企業も出てくるでしょう。私たちはそこから学んで、新しい働き方に移行していくつもりです。

──COVID-19が収束したら、2020年以前のような働き方に戻ると思いますか。

ブーラ:自由度の高い働き方を導入するつもりですが、完全にリモートワークのみにはしません。社員が出社できるように本社と各地のオフィスは維持します。企業文化の考え方として、帰属意識の醸成がきわめて重要だからです。とはいえ、毎日出社する必要はありません。管理職も一般社員も週に2、3日の出社が望ましいと考えています。経営陣も模範を示すために、そのようにする予定です。これはつまり、新たな職場環境を作り上げていくということです。1週間に数日だけ出社するとなると、自分のオフィスに閉じこもったりはしないでしょう。それなら家にいればよいのですから。出社するのは同僚と交流するためなのです。

私たちはオンラインで業務を行うためにさまざまなテクノロジーを利用してきましたが、それがうまくいった理由の1つは、全員がオンラインで集まったからです。以前、10人のメンバーが実際に会議室に集まり、1人だけがリモートで参加したことがあったのですが、こうした状況ではリモート参加の1人は疎外感を抱くことになります。しかし全員が同様にオンラインで参加すると、問題は即座に解消されました。そこから教訓を得たので、今後は会議室の設計を変えるかもしれません。それぞれの座席にスクリーンを置いて、会議室にいる人も各自オンラインで会議に参加するようにするのです。

新たな方法への挑戦、社員の情熱と献身で実現した「奇跡」

──治験期間のさらなるスピードアップは可能なのでしょうか。

ブーラ:やり方を変えるということに関して、私たちは今回多くを学びました。例えば、各段階を1つずつクリアするのではなく複数の段階の治験を同時進行する方法、リスクを正しく評価する方法やデジタルの活用方法も学びました。研究開発プロセスのデジタル化には2018年から2019年にかけて力を入れていましたので、COVID-19ワクチンの研究開発が始まったころには、従来よりもはるかに大規模なプロジェクトを可能にするインフラが整っていました。今回は初めてこの最新システムを最初から最後まで使用して研究開発を実施しました。このきわめて大規模なプロジェクトには、最終的に4万6,500人が参加し、150以上の研究センターが協力しました。こうした体制により、研究者は世界中から集められたデータを基に6時間ごとに高精度なシミュレーションを行うことができました。多くの検査を実施し、その結果をシステムに入力する必要があったため、データの数は数十億に上りましたが、紙でのやりとりはほとんどなく、これはスピーディーな開発に大いに役立ちました。

COVID-19ワクチンの開発は、当社にとってやり方を大きく変えることで奇跡を起こしたという実績になりました。では、同じことをCOVID-19だけでなく、ガンやデュシェンヌ型筋ジストロフィーについてもできるはずではないのか? 私たちは今まさにそこに取り組んでいます。

──先ほどCOVID-19ワクチンの開発を「奇跡」と称されましたが、ファイザーをはじめとする製薬会社が日々あらゆる疾患の治療薬を開発する中で、これはやはり奇跡と呼ぶにふさわしいものだったのでしょうか。

ブーラ:今回のワクチン開発が成功する可能性はきわめて低かったことを考えると、これほどまでの大成功は、ある意味で奇跡と言えると思います。しかし、1つはっきりお伝えしておきたいのは、この奇跡は単に運がよかったから起きたものではないということです。考え抜かれた上での奇跡であり、開発の過程で迫られた何百もの決断の成果です。必要だったのは開発に関わる全員の厳しい管理の目と情熱、そして献身でした。その結果、私たちは成功を収めたのです。たまたま運よく成功したわけではありません。

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アルバート・ブーラ氏【後編】人々の命を守るブレークスルーを生み出し続けたい

※strategy+business からの転載記事はPwCネットワークのメンバーファームの見解を示すものではなく、記事中での出版物・製品・サービスへの言及には推奨の意図はありません。

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