深水 大輔 氏Daisuke Fukamizu
長島・大野・常松法律事務所
パートナー 弁護士
池田 雄一Yuichi Ikeda
PwCアドバイザリー合同会社
パートナー

2021年02月01日

DX

後編深水大輔氏×池田雄一対談 AI活用でリアルタイムに不正を検知
デジタルフォレンジックの可能性

フォレンジック調査はこれまで主に不正事案が発生した後の調査に活用されてきましたが、近年はその技術を平時のビジネス活動に組み込み、不正の早期発見やリアルタイムのモニタリングによる防止に応用することが期待されています。AIを活用して画像や自然言語などの膨大なデータを分析し、不正のリスクを事前に把握できるようになれば、企業価値の毀損につながる事案の発生を未然に防ぐことができます。大型の企業不正事案に豊富な経験を有し、テクノロジーの活用にも積極的に取り組む深水大輔弁護士(長島・大野・常松法律事務所)と、デジタルフォレンジック分野で多くの企業を支援してきたPwCアドバイザリー合同会社パートナーの池田雄一が、先端技術を駆使したフォレンジックの進化と、その可能性を展望しました。

目次

不正につながるチャットのやりとりをリアルタイムで検知

PwCが実施した『経済犯罪実態調査2020(日本分析版)』では、組織におけるリスク評価に関する不正防止プログラムの導入状況についての質問に対し、「リスクマネジメントは実施していない」と回答した日本企業は28%で、全体の3分の1近くに及んでいます。グローバルと比べて15ポイントも高いことからも、日本企業でリスクマネジメントの体制整備が急がれることがお分かりいただけると思います。

池田
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組織におけるリスク評価に関する不正防止プログラム

一方、「リスク評価に加えて、予測不可能なリスクを管理するための危機管理プログラムが導入されている/高度な技術(人工知能など)を活用している」との回答は、日本でもグローバルでも13%にとどまりました。先ほど深水さんが指摘された「有事対応から平時の備えへ」というトレンドを踏まえると、AIの活用は今後重要なポイントになります。

池田
池田
深水氏
深水氏

平時の備えとして求められるのは、不正や不正の疑いに関する情報をタイムリーに検知することです。例えばチャットなどのデジタルコミュニケーションのデータをAIで分析し、リスクの存在を示唆する特定のやりとりが検知された際に、リアルタイムでフラグを立てて注意を喚起することができれば、取り返しのつかない事態が発生する前に不正行為を防げる可能性が高まります。

現状では、不正会計のような数字に関わる事案であれば、不自然な数字のシナリオを学ばせたAIを使って高い精度で発見することができるようになっており、すでに金融機関などでは不適切なトランザクションを止める仕組みが導入されています。しかし、チャットやEメールなど言語を通じたコミュニケーションは、人や状況によって言い回しや言葉のニュアンスが異なるので、そのメッセージが不正を示す表現なのか否かを判断して検知するのはまだ困難です。今、私たちのチームでは、自然言語処理技術を活用してEメールやチャットの文脈を読み取り、過去の不適切なコミュニケーションに関するシナリオやパターンをAIに学習させることで、精度の高いアラートを出す仕組みの開発に取り組んでいます。過去の不正事案で使われたテキストに類似したテキストを見つけるだけでは、精度の向上が期待できません。そこでさらに踏み込んで、これまで蓄積してきた膨大なデータを教師データとして、不正に絡む言い回しやトーンまで理解できるAIの開発を目指しています。

池田
池田
深水氏
深水氏

それは非常に有望な試みですね。

はい。ただ、この場合もやはりeディスカバリー(電子証拠開示)と同様に、データのアクセスとプライバシーに関してまだ議論が必要な点があります。

池田
池田
深水氏
深水氏

そのとおりです。例えば、A社の事案で入手した調査データに基づく分析結果をB社の事案に適用してよいのかどうか、法的にクリアすべき部分があると思います。個人情報を匿名化する方法はありますが、そうした情報を案件の垣根を越えて積極的に活用するには、まだ議論を詰めるべき課題があると考えられます。

とはいえ、米国では、ある過去の大規模な企業不正における経営陣のコミュニケーションのデータが研究目的等で利用可能になっており、そのデータをサンプルとした対策ツールが開発されていますので、日本でも法的なハードルをクリアできる可能性はあると思います。過去の調査で取得したデータを匿名化して大きなデータプールを構築できれば、一気に開発が進むかもしれません。

証拠としての重要性を増す画像データをAIで分析

デジタルフォレンジックの分野では、新たな技術が次々と開発されています。最近、私たちのチームではAIを使った画像分析を実用化しました。テキスト情報を含む画像をAIによって検知させ、きれいなテキストであればOCRをかける、手書きであればマニュアルで見るというように振り分けて、その画像の中から証拠を見つけ出します。これまで画像データは重要な証拠になることが少なく、eディスカバリーではあまり重視されてきませんでした。しかし最近ではスマートフォンの普及もあり、ホワイトボードに書いた会議のメモや重要な書類を写真に収めるといった機会が増えています。証拠を探す上で、もはや、こうした画像も無視できない存在になってきています。

池田
池田
深水氏
深水氏

そうですね。ただ、調査対象者1人当たり何万枚も写真を保存しているようなケースもありますから、それらをどのように探索するかが課題でした。

従来は、画像が争点になると初めから判明しているような事案でない限り、画像を分析することは時間とコストの両面で現実的ではありませんでした。この画像分析システムは、手書き文字も含め、現段階で95%程度の認識率があり、毎時2万件の画像データを処理することができます。これにより、Eメールなどの通信記録に加えて、画像を調査対象に加えることができるようになりました。将来的には、人の表情の検知や、写真に写っている人物どうしの関係性の分析、さらには静止画だけでなく動画の分析も実現したいと考えています。

池田
池田
深水氏
深水氏

そうなると、関係者に話を聞く際に、AIで表情をリアルタイムに分析しながら真意を探れるようになるかもしれませんね。

確かに、ベテランの検察官は相手のしぐさや目の動きから嘘をついていることを読み取る技術を持っているそうですから、そうした個人の経験に基づいたノウハウをAIで代替できるようになれば、フォレンジックも大きく進化するはずです。

池田
池田

人事の流れに潜む不正リスクをどう読み解くか

深水氏
深水氏

少し別の角度からの話になりますが、私は企業における人事をモニタリングすることでも、不正リスクを検知、分析できるのではないかと考えています。例えば、社内における異動や昇進の動向をたどっていくだけでも、その企業の文化をある程度可視化できることがあります。一般的に多くの会社には権限が強い部署と弱い部署がありますが、権限の強い部署では経営の失敗を隠す類の不正が発生するリスクがある一方で、権限の弱い部署では情報をきちんと報告せずに隠蔽するようなタイプの不正が発生する傾向にあります。人事の流れからこうしたセクショナリズムを解明して、そこで交わされるコミュニケーションに潜むリスクを読み解くことは、平時のモニタリングにおいて有用な施策になると考えています。

部署やグループ単位でプロファイリングしていくということですね。以前、調査を担当した情報漏洩事件で、不正行為の目的が金銭ではなく、個人的な怨恨ではないかと推察できるケースがありました。その仮説に基づいて個人のプロファイリングを実施した結果、企業合併によって出世コースから外れて窓際のポジションに追いやられたスタッフが、会社を痛い目に遭わせようと考えたことが原因だと判明しました。人事情報を用いてこうしたプロファイリングを部署やグループ単位で実施するのは、予防の観点からも極めて有効だと思います。

池田
池田
深水氏
深水氏

そうですね。特に日本の企業では、下級職から上級職へと経時的・段階的に昇進し、役職員が特定の部署に長期間所属する場合があるので、欧米の企業に比べて業務遂行の手法が個人やグループに依存しやすいと言えます。

そうした企業文化や人の流れの可視化においても、AIなどのテクノロジーを活用できそうですね。

池田
池田
深水氏
深水氏

これまでのフォレンジックは過去に何があったかを解明することに主眼を置いていたと思います。しかし、技術を使ってできることの範囲はどんどん広がっていますから、より効率的なコンプライアンスやリスク管理をどう実現していくかといった、将来に向けたクリエイティブな議論をしていく時期が来ているのではないでしょうか。

おっしゃるとおりですね。さまざまな知見を持つ専門家どうしのディスカッションを通じて、より画期的な新しいサービスを世に送り出すことができるはずだと私も再認識しました。ありがとうございました。

池田
池田

対談を終えて

近年あらゆる事業活動がデジタル化され、企業が扱うデータ量も増加の一途をたどっており、不正の事実や兆候が企業の保有データの深層に潜んでいる可能性が高くなってきました。これまでのフォレンジックは8~9割が不正事案発生後の対応でしたが、それでは絆創膏を貼るだけの対症療法に過ぎません。デジタルフォレンジックを活用して企業内外に存在する膨大かつ複雑なデータを分析・可視化し、不正の事実や兆候を初期段階で検出できれば、不正の防止のみならず、不正発生時の損失を最小限に抑えることも可能となります。どれだけコンプライアンスを強化しても、人間が介在する以上、社内の不適切な行為を完全に防ぐことはできません。防げない以上、いち早く検知することが最大の防御策であり、防御が鉄壁であればこそ攻めの経営が可能になります。そうした攻めのリスクマネジメントを実現するためにも、テクノロジーの活用によるデジタルフォレンジックの進化を推進していきたいと考えています。

池田
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深水大輔氏×池田雄一対談【前編】デジタルフォレンジックがCOVID-19の拡大で注目される必然

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深水 大輔 氏Daisuke Fukamizu

長島・大野・常松法律事務所
パートナー 弁護士

東京都立大学法学部卒業後、東京大学法科大学院修了。2008年長島・大野・常松法律事務所に入所し、2012年に公認不正検査士資格を取得する。2015年には英国King’s College LondonにおいてEU競争法を学んだ後、Kirkland & Ellis LLPのシカゴオフィスにて1年間、ホワイトカラークライム等の分野を中心とした研修を経て帰国。危機管理・企業不祥事対応、コンプライアンス、競争法、金融レギュレーションなどの分野でグローバルな当局対応を含む大型企業事件を多数手がける。信州大学特任准教授として、国内外で企業犯罪に関する研究活動も行う。2019年にAsian Legal Business(ALB)において40 Asia Outstanding Legal Professionals 40に選出。2020年にはALBにおいてYoung Lawyer of the Year受賞。The Legal 500 Asia Pacific 2021においてNext Generation Partnersに選出。経済産業省「Society5.0における新たなガバナンスモデル検討会」委員(2020年)。

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池田 雄一Yuichi Ikeda

PwCアドバイザリー合同会社
パートナー

海外訴訟および海外規制当局の調査によって生じるeディスカバリーや不正調査などにも用いられるデジタルフォレンジックを専門とする。製造業、金融機関、医療機器・製薬、商社などさまざまな業界において日本企業が直面する内部不正の調査対応から、海外訴訟、海外規制当局によるカルテルや海外腐敗行為の調査など世界各国との連携が必要となる複雑なクロスボーダー案件まで、幅広い分野での経験を有する。

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