ポール・ポルマン 氏Paul Polman
元ユニリーバCEO
国連SDGsアドボケート

2020年12月21日

SDGs

Inside the Mind of the CEO

後編ポール・ポルマン氏 サステナブルな社会への転換にはパートナーシップが不可欠

本記事は、PwCグローバルネットワークのメンバーファーム数社で発行する「strategy+business」に掲載された記事の抄訳です。原文はこちらからご覧ください(※)。

インタビュアー:デビッド・ランスフィールド(PwC英国 パートナー)、ジェレミー・グラント(「strategy+business」インターナショナルエディター)
写真:ユニリーバ提供

インタビューシリーズ「Inside the Mind of the CEO」では、世界各国の企業のCEOにお話をうかがい、不確実性の時代にCEOが重要な意思決定にどう向き合っているのかを探っていきます。
PwCが世界のCEOを対象に実施している「世界CEO意識調査」もあわせてご参照ください。

ユニリーバのCEOとして責任ある事業運営の実現に尽力し、SDGsの策定にも貢献したポール・ポルマン氏。後編では、SDGs達成に向けたパートナーシップの重要性と、変革を起こすための経営者としての心構えについて聞きました(本インタビューは2019年7月に公開したポッドキャストの内容を再構築したものです)。

目次

近視眼的な経営から脱却し、企業の垣根を越えて協力しなければSDGsは達成できない

──ユニリーバでは、当時一般的だった知見や慣習に反して、パーパスや責任あるビジネスの追求といった一連の考え方をCEOとして制度化されましたが、その過程で何が最も難しいと感じられましたか。

ポルマン:私が同社のCEOに就任したのは、金融危機の真っただ中でした。危機に対処するため、ほとんどの企業がコスト削減プログラムに取り組んでいました。しかしユニリーバは、会社をもっと大きくし、環境や社会、そして経済により広範な影響を与える、という戦略を打ち出しました。これは当時、他社の戦略とはかけ離れたものだったと言えるでしょう。

私は同社を国連のミレニアム開発目標にしっかりと沿う形にしたかったのですが、それは四半期報告に焦点を当てた近視眼的な経営では無理でした。そのため、まずはメッセージを発信すること、さらには人々に余裕をもたらすことが必要だと考えました。そこで、四半期報告を取りやめ、アナリストガイダンスを廃止し、長く存続する企業になるという明確なメッセージを打ち出しました。当然ながら、これには多くの懐疑や冷笑が向けられました。また、実現すれば悪材料になるとの見方から、株価も実際に8%下がりました。しかし、少しずつですが、私たちは信頼を獲得していきました。

このような施策を導入する際に最も難しいのは、社内のあらゆる人間を参加させ、目線を合わせること、そして、社内の軋轢やトレードオフなど即座には対処できない問題に、今後対応していけるような体制を整えることです。

──企業が単独で着手するには、かなり大胆な取り組みだったのではないでしょうか。

ポルマン:ユニリーバでは温室効果ガスや廃棄物の削減、持続可能な調達、インクルージョンなどについて50個の目標を設定したのですが、その多くは非常に大胆なものでした。そのため、自分たちが全ての答えを持っているわけではないこと、単独では達成できないこと、パートナーシップを締結する必要があることを、最初にはっきりさせておきました。そうしたパートナーシップには、信頼性と透明性が必要です。

私たちがこれらの目標を設定したのは、そうした信頼性や透明性を確保するとともに、人類に対してより大きな影響をもたらす変化を引き起こすためでした。ユニリーバほど規模の大きな会社でも、単独でそれを実現することは不可能です。したがって、これほどの革新的な変化を、いかに会社の枠を超えて推し進め、各業界の足並みを揃えるかが、より大きな課題でした。

ある業界全体に森林破壊をやめさせるにはどうしたらよいか? ある業界全体を循環経済に移行させるにはどうしたらよいか? 今私たちが目の当たりにしているプラスチック問題を解決するにはどうしたらよいか? これらに単独で対処できる企業は存在しません。政府、市民社会、民間セクターが提携関係を構築する必要性がますます高まっています。大変な作業であることは明らかですが、貧困、食糧不安、気候変動といった、現在私たちが直面している問題を解決したいのであれば、取り組まないわけにはいきません。

こうした問題はいずれも、私たちが世代を超えて手を染めようとしている最大の犯罪と言えるものであり、ある一企業にだけ責任があるというわけではないのです。私たち全員の問題として一致協力して対処しなければ、誰にとっても不利益な結果となるでしょう。その兆候は日々現れています。ですから私は、どうすればその輪を広げて、事態を一変させる転換点をもたらすことができるかを常に考えています。

──そうしたパートナーシップを通じてより持続可能な未来を実現するために、民間セクターはどのような役割を果たすと考えますか。

ポルマン:幸運にも私は、国連がSDGs策定のために2012年7月に設立したハイレベル・パネルに、産業界の代表として参加してほしいと当時の潘基文(パン・ギムン)事務総長から依頼されたのですが、これが私にとって大きな原動力となりました。ここで、未達の目標を達成するには対処しなければならない問題が多数あることを学んだのです。問題について深く知れば知るほど、「解決策を提示する責任は、民間セクターにあるのではないか」と思うようになりました。

今日の環境において、各国政府は明らかに麻痺状態に陥っています。これについては皮肉ったり苦言を呈したりするよりも、現実として割り切るべきでしょう。そうした政治的プロセスの滞りを打開するために、ますます民間セクターの力が必要とされています。貧困の解消という目標の達成に必要な資金は、どの国の財政力をもってしても到底賄えるものではありません。

持続可能な開発の推進には民間セクターが必要であり、同時にそれは民間セクターにとっても有益なことです。例えば、ブランド価値を高めて優秀な人材を集められるようになるほか、コストの削減やリスクの軽減、商機の大幅な拡大にもつながるかもしれません。清潔で衛生的な生活環境を得られていない人々が25億人いるとしたら、それは非常に大きな機会となり得ます。空腹を抱えたまま床につく人々が8億2,600万人いるとしたら、そこにはこれから巨大な市場が生まれる可能性があるのです。

「T字型」リーダーシップで社内外を動かす

──こうした取り組みにおいて説明責任を果たし、信頼を構築するには何が必要でしょうか。

ポルマン:何よりもまず透明性です。透明性を確保することは、行動を促すことにつながります。ユニリーバでは50の具体的な目標を公表することによって、信頼を獲得してきました。

一方で、企業の価値観として持続可能性を根付かせたいのであれば行動様式そのものを変化させる必要がありますが、そのためには単に目標を設定するだけでは不十分です。多くの企業は、例えば多様性(ダイバーシティ)を実現するための目標として割当率(クォータ)を掲げています。ユニリーバでは、私が在職していた10年間で女性管理職の割合が37%から半数まで上昇し、取締役会のメンバーは現在半数が女性となっています。しかしこれらは、クォータ制度によって達成されたわけではありません。誰もが尊重され、敬意をもって扱われるべきであるという事実を全員が受け入れることによって達成されたのです。多様な組織のほうが高いパフォーマンスを上げられるという信念に基づいて、評価制度などを含めた完全なインクルーシブプログラムを構築することが重要です。それが透明性の高いものとなっていれば、人々の行動は自然に変化します。公平かつ透明性が確保されたシステムは、実際に行動を促進できるのです。

──それを実現するには、リーダーシップチームはどうあるべきだと思われますか。

ポルマン:経営者が何かを深く掘り下げようとすると、すぐにマイクロマネジメントだと思われてしまいます。逆にあまりにも雲の上にいて、戦略的なことにしか関わらない経営者は、現場から遠い存在だと思われてしまいます。ちょうどよいバランスを見つけるのは難しいですが、私は優れたリーダーとは、組織内を上下に行き来できると同時に横断的でもある「T字型」のリーダーだと考えています。「横断的」とは、会社の枠をはるかに超えたパートナーシップにおいて協働できる、ということです。

リーダーは細部まで気を配ることができる人物でなければなりません。消費財業界では特にそうです。変化に対する切迫感を高めたり、ストーリーテリングによってパーパスに生命を吹き込んだりするには、詳細を把握した上で、全体像を見渡すことが必要だと思います。

また私は、管理すべきは時間ではなく、エネルギーだという考え方を強く支持しています。仕事のために英気を養い視野を広げることは、変革を起こすリーダーとなるためにも非常に重要です。その方法は人それぞれで、読書をしたり、外部の活動に参加したり、アライアンスを結成したりといったことが挙げられるでしょう。私の場合は国連での活動がその役割を果たしていました。

──大企業の新任CEOを指導するとしたら、どんなアドバイスを与えますか。

ポルマン:私の出身地であるオランダは、人々が地に足のついた生活をしている国です。そのため、私はまず「CEOである前に人間であれ」とアドバイスするでしょう。次に、「パーパス」について聞きます。これまで多くのCEOや企業と話をしてきましたが、私はいつも最初に「あなたの会社のパーパスは何ですか?」と質問することにしています。自社のパーパスを言葉で表現できないなら、そもそもその会社は存在する必要がないのです。

パーパスを定義したら、それを実践しなければなりません。自分の経営する保険会社が自分の家族に勧めたいと思うような保険商品を扱っていなかったり、自分の経営する銀行が金融商品の不適切な販売や誤った説明によって人々を貧困に追いやっていたりするのは、よい状態とは言えません。パーパスを定義し、個人の価値観と会社の価値観を一致させることができれば、仕事がストレスとなることもないはずです。

もう1つ重要なのは、パッション(情熱)です。人は自分が情熱を持てること、得意なこと、社会から求められることが合致したときに、素晴らしい人生を送ることができます。

そして最後は「前向きな姿勢」ということになるでしょう。不確実性の高い時代に、自ら先陣を切って変革を起こしていくことは、決して容易ではありません。なかなか進展しなかったり、障壁に阻まれたりすることもあるでしょう。そうしたあらゆる困難に耐え抜く最善の方法は、人間らしくあること、パーパスとパッションを持つことに加えて、前向きな姿勢を保つことだと思います。

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ポール・ポルマン氏【前編】パーパスドリブン経営で実現するサステナビリティと企業成長

※strategy+business からの転載記事はPwCネットワークのメンバーファームの見解を示すものではなく、記事中での出版物・製品・サービスへの言及には推奨の意図はありません。

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