バーバラ・ハンプトン 氏Barbara Humpton
シーメンス米国法人 CEO

2020年11月16日

Inside the Mind of the CEO

後編シーメンス米国法人CEO バーバラ・ハンプトン氏が語る データと現場をつなぎ、仮想世界と現実世界のループを完成させることが使命

本記事は、PwCグローバルネットワークのメンバーファーム数社で発行する「strategy+business」(2019年冬号)に掲載された記事の抄訳です。原文はこちらからご覧ください(※)。

インタビュアー:ミシェル・ゲルデス(「strategy+business」アソシエイトエディター)
写真:Siemens US提供

インタビューシリーズ「Inside the Mind of the CEO」では、世界各国の企業のCEOにお話をうかがい、不確実性の時代にCEOが重要な意思決定にどう向き合っているのかを探っていきます。
PwCが世界のCEOを対象に実施している「世界CEO意識調査」もあわせてご参照ください。

シーメンス米国法人 バーバラ・ハンプトンCEOのインタビュー後編では、1847年創業の老舗企業である同社がデジタルトランスフォーメーション(DX)をどう推進しているのか、デジタル時代において自社の役割をどう位置づけているのかについて聞きました(本インタビューは2018年12月に実施したものです)。

人間の模倣ではなく拡張する人工知能

──シーメンスの人工知能(AI)戦略について教えてください。

ハンプトン:AIは当社が特に力を入れている分野です。このテクノロジーの非常に素晴らしい点は、人間としてできることの定義が、わずか数年前には想像もしなかった範囲まで広がるということです。大きな転換点が、予想を上回るスピードで現実に近づきつつあります。

シーメンスでは、AIを次の段階に引き上げるために必要な要素を全て準備できています。これまで顧客の建物に通信・コンピューティングツールと物理的インフラを整備してきましたが、現在は、物理的環境にあるモノとのやりとりができるようセンサーの導入を進めています。これによりまったく新しい領域が生まれます。どのようにして機械とやりとりし、仮想世界で協働し、それを現実世界での改善や、新たなビジネスモデル、顧客のニーズに応える新たな方法へとつなげられるかを探求していくのです。こうしたデータ主導型のプロセスによって、私たちは人々が必要だと気づいてすらいなかったような新しい何かを発明できるでしょう。

他にもこの20年間に進歩を遂げたものとして、携帯電話の端末と通信ネットワークがあります。当初はエンタテイメントやコミュニケーションの分野に応用されましたが、今ではそのテクノロジーの全てが他の分野でも利用できるようになりました。例えば当社が現在手がける大規模なIoTテクノロジーにも、携帯電話の技術が活用されています。

AI業界で最近よく聞かれるようになった用語ですが、私たちはAIの活動を統合するためのテクノロジーを、「拡張知能」と呼んでいます。

──拡張知能と人工知能の違いは何ですか。

ハンプトン:科学技術において人工知能と言う場合はたいてい、コンピューターに人間の知能とそっくりな能力を与えることを指しています。こうした機械が人間の脳と同じプロセスを踏み、データを活用して、人間とほぼ同じやり方で結論を導き出し、意思決定を行うという構想です。人工知能に関するこの種の考え方は、当然ですが人々に恐怖を抱かせます。

しかし、実際に私たちが作ろうとしているものは大いに異なります。拡張知能では、テクノロジーでどの問題に対処するかを決定する人間が必要です。コンピューターは関連するデータを分析し、その人の補佐をします。例えばヘルスケアの領域では、拡張現実が医師による病気の診断を助け、治療の推奨をサポートするかもしれませんが、どの治療を患者に勧めるかを決定できるのは医師だけです。拡張知能は、人間の行動の有効性を高めるものなのです。

DXの恩恵は世代の壁を越える

──インダストリー4.0について最初に専門家が話題にしたとき、大方の予想では、2020年にはAIとIoTが私たちの生活の大部分でシームレスに統合されるということでした。現在の進捗はどうでしょうか。

ハンプトン:太陽の光にたとえてお話ししましょう。今は夜明けです。私たちは水平線の向こうからこちらを照らす光を見ています。中には、他の人よりも早く光が到達する人もいます。高度に進化した都市部では、すでにテクノロジーが普及しています。しかし、全世界で採用されるにはもっと時間がかかるでしょう。どのくらい時間がかかるかは、場所や人々の意識によって大きく異なります。

DXのよいところは、段階に応じた成長が可能だということです。「ビッグバン」である必要はないのです。ただし、どの企業のリーダーも、デジタル化を進める必要性、あるいは取り残されるリスクについて認識はしなければなりません。

──進展の具体的な例を教えてください。

ハンプトン:私が最近訪れたテキサス州グレートプレーリーの自社工場では、工場のフロアにデジタルネイティブ世代の従業員を採用しています。この若者たちは何十年も工場で勤務してきた従業員と働きながら、データの利用や機器の設定などにテクノロジーを活用して業務を改善する方法を一緒に考えています。

私は当初、このプログラムによって越えがたい世代間の壁が浮き彫りになるのではないかと考えていましたが、結果を知って驚きました。勤続20年、30年、さらに40年になる従業員たちに話を聞けば聞くほど、ベテラン従業員も自身の役割を変革することができるのだと明るい展望を持つようになりました。彼らは「すごくわくわくしている」と語っています。何人かの年配の従業員は、デジタルネイティブたちとしばらく仕事をしてから、自分でもテクノロジーを使いこなして業務を改善できるよう、リサーチや作業をしてみたそうです。こうした事例を見ると、多世代からなるチームが当社にとって今後非常に有益になるはずだと感じます。

──長年勤めている社員には、こうした新たなテクノロジーの導入に抵抗する人もいるのではないでしょうか。

ハンプトン:製造業のオペレーションに大きな変化が起こっていることは、私たちがあらゆる面で実感している現実です。製品によっては、過去のやり方とまったく違う方法で作られているものもあります。最初のうちはテクノロジーに抵抗をおぼえるムードがありましたが、実際に従業員一人ひとりの業務が改善されると、テクノロジーに懐疑的なベテラン社員もすぐに賛成してくれることが分かってきました。

バージニア州南東部にあるニューポート・ニューズ造船所との実践を例に挙げましょう。同社は米国海軍向けに寄港する船舶の保守管理を行っています。保守管理にあたっては改造や新たな機能の追加など多くの作業が必要です。こうした作業に関連する業務は従来、紙の文書に大きく依存していました。

そこで、同社のバラト・アミンCIO(最高情報責任者)はデジタル造船所のビジョンを描き、シーメンスのテクノロジーを導入して、紙の文書作成にかかる時間の削減を図っています。例えば、作業員は船舶からオペレーションに関するデータを電子的に収集し、シーメンスのプロダクトライフサイクル・マネジメントツールを使って最適な作業計画を決定して、作業指示書を電子的に発行します。散らかりやすく並べ替えの面倒な分厚い設計関連文書や作業指示書を持ち歩く必要がなくなり、簡単に操作できるタブレット1台で作業できるようになったことは、作業員に歓迎されています。

他にも、シーメンスガバメントテクノロジーズのマネージドサービスセンターでの例があります。同センターではサマーインターンの大学生に、業務のうちどの程度が自動化できるかを考えるよう依頼しました。先ほどの例と同様に、彼女もタブレットを導入して業務を迅速化し、ペーパーワークを減らしました。その結果、夏が終わるころにはベテラン従業員から彼女を正社員として雇うべきだという声が上がるようになりました。彼女は、会社に精通し長く働いてきた人々から大いに尊敬されたのです。

当社は今後もこうした経験をしていくでしょう。否定的な思考の人たちは困難を強調しようとしますが、現状はそれほど大変ではないと思います。

誰もが生産性を上げられるインターフェースがカギ

──DXの推進にあたり、課題となっていることは何でしょうか。

ハンプトン:当社では現在、ヒューマンマシンインターフェースをよりなめらかで直感的なものにすることに取り組んでいます。社内のエンジニアたちは技術者思考に陥りやすく、エンジニアにしか分からないインターフェースを考案しがちなのですが、それでは長続きしません。というのも、工場での作業にも高度な技術的知識が求められるようになったことで、以前ならエンジニアが従事していたような仕事を、非技術職の社員にも引き受けてもらわなければならなくなっているからです。

私が関心を持っているのは、より直感的なユーザーインターフェースを考案し、4年制大学を卒業していない人たちでも、当社工場の職場環境で高い生産性を上げられるようにすることです。これは実現しつつあります。当社は先ごろ、優れたユーザーインターフェースを開発する複数の企業を取得したところで、この問題に精力的に取り組んでいます。

考えられるシナリオの1つは、VR(仮想現実)グラスをかけて指示を伝えることです。従業員はどこを見るべきか、どうジェスチャーするかさえ知っていれば、複雑な作業を遂行することができます。コンピューターの支援する環境で生産性を上げるというのが、今後目指すべき姿だと思います。

──仮想環境は現実世界にも大きなインパクトを与えると思われますか。

ハンプトン:はい。例えば当社は、オフラインになった送電網の電源を迅速かつ効率的に立ち上げるためのコンピューター制御モデルを開発しました。従来の方法ではダウンした部分の電源を全て一度に立ち上げようとするため、別の停電を引き起こすリスクがありましたが、新たな方法では、ダウンした部分どうしや、立ち上がっている部分とデータをやりとりすることにより、最も効率的な方法を選んで自動的に復旧します。

これは、シーメンスが加わったことで1つのループが完成した例です。当社には物理的インフラと、仮想世界での活動と、大量のデータがあります。したがって、データを仮想世界で最大限に活用し、そこで分かったことを現実世界に返して応用することができます。アナログ世界とデジタル世界のループを完成させることが、当社の使命だと考えています。

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シーメンス米国法人CEO バーバラ・ハンプトン氏が語る【前編】スタートアップとともにイノベーションを実現し、テクノロジーをリードし続ける創業170年企業の成長戦略

※strategy+business からの転載記事はPwCネットワークのメンバーファームの見解を示すものではなく、記事中での出版物・製品・サービスへの言及には推奨の意図はありません。

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