バーバラ・ハンプトン 氏Barbara Humpton
シーメンス米国法人 CEO

2020年11月09日

Inside the Mind of the CEO

前編シーメンス米国法人CEO バーバラ・ハンプトン氏が語る スタートアップとともにイノベーションを実現し、テクノロジーをリードし続ける創業170年企業の成長戦略

本記事は、PwCグローバルネットワークのメンバーファーム数社で発行する「strategy+business」(2019年冬号)に掲載された記事の抄訳です。原文はこちらからご覧ください(※)。

インタビュアー:ミシェル・ゲルデス(「strategy+business」アソシエイトエディター)
写真:Siemens US提供

インタビューシリーズ「Inside the Mind of the CEO」では、世界各国の企業のCEOにお話をうかがい、不確実性の時代にCEOが重要な意思決定にどう向き合っているのかを探っていきます。
PwCが世界のCEOを対象に実施している「世界CEO意識調査」もあわせてご参照ください。

今回インタビューしたのは、シーメンス米国法人のバーバラ・ハンプトンCEOです。1847年にベルリンで電信機製造会社として創業したシーメンスは、産業テクノロジー分野でグローバルに事業を展開するコングロマリットです。米国法人はインダストリー4.0を牽引するシーメンスの中でも重要な位置づけを占めており、人工知能(AI)やIoTを含む先端技術分野において多くのイノベーションを生み出すとともに、スタートアップ企業への投資を通じてインキュベーターの役割も果たしています。世界中に子会社を有する巨大な産業製品メーカーであるシーメンスは、創業から170年以上を経た今もどのようにしてテクノロジーをリードし、成長し続けているのか、その戦略について話を聞きました(本インタビューは2018年12月に実施したものです)。

スタートアップ企業との連携で、自社にディスラプションを起こす

──19世紀に電信機製造を祖業としてスタートしたシーメンスが、このデジタル化の時代に未来志向の人材を引きつけている魅力はどこにあるのでしょうか。

ハンプトン:最近、当社のパーパス(存在意義)について語ることが多いのですが、社内のあらゆるレベルの従業員に現場で話をするにつれて分かってきたのは、ミレニアル世代を含む全社員が、自分の仕事の意義を実感したがっているということです。誰もが自分は本当に重要なことをしているのだと思いながら働きたいのです。だからこそ、当社は全ての年齢層の従業員を対象にエンゲージメントを強化し、将来の問題解決に真のインパクトを及ぼすことを目指しています。

戦略の立案にあたっては、都市化や高齢化、あらゆるもののデジタル化、気候変動など、世界が直面しているメガトレンドを考慮しています。自社のノウハウを利用して、こうした大規模な、他社には解決できない問題に取り組むことで、社会に貢献しているのです。これは当社にしかできない役割だと自負しています。電力供給や自動化、デジタル化、AI、IoTといったスケールの大きなテクノロジーに取り組んでいるのはこのためです。

──スタートアップ企業とも積極的に関係を築いていますね。

ハンプトン:私たちは、どんな企業も自社のディスラプション(創造的破壊)を効果的に起こす方法を知るべきだと考えています。その思想に基づき、2016年にグローバル投資部門「Next47」(同社が創業した1847年にちなんだ名称)を新設し、当社が関心を持つ分野に画期的なイノベーションをもたらすと思われるスタートアップ企業への共同投資事業を立ち上げました。そしてかなり早い段階で、この世界には投資可能な資金は十分ある一方、素晴らしいアイデアはそう多くないことに気づきました。そのため、あわてずにじっくりと対象企業を絞り込むようになりました。

──スタートアップ企業とパートナーシップを組む際の最適なタイミングは、どのように判断しているのですか。

ハンプトン:提携を検討する時点で、市場が今後成長するのか、その企業のテクノロジーが開花するのか、あるいは参入障壁が高く競争相手が少ないため投資が回収できる事業なのか、といった見通しが立たない場合は、まだ早すぎる段階だと言えます。

一方、市場がすでに成長を遂げていたり、そのプレーヤーがすでに成功していて追加資本を投じる必要がなかったりすれば、タイミングが遅すぎます。そうした企業は、M&Aかそれに準ずる投資先候補として検討します。

当社としては、その中間の段階にある優れた企業を見出したいと考えています。シーメンスのような大企業と協力することでメリットを得られる、ちょうどよい段階にある企業です。投資にあたっては、すでに有望なコンセプトや商品を持っていることが望ましいですね。例えば、荒削りなテクノロジーがあり、当社のプラットフォームを活用すればそれを進化させられるといったケースが理想です。

──スタートアップ企業にとって、シーメンスからの投資を受けるメリットはどこにあると思いますか。

ハンプトン:当社の顧客を含むエコシステムを利用できるという点は、非常に魅力的なメリットだと思います。また、私たちはその企業が成功しやすい環境を整えることを目指しています。社内に「カタリスト」というポジションを新設したのもそのためです。カタリストはスタートアップ企業に助言を提供し、ディールを成功に導きます。通常、シーメンスが市場やビジネスモデルが有望かどうかを確認すると、そのスタートアップ企業を担当するカタリストを指名します。カタリストがディールに新たな要素として加わることで、その名の通り触媒反応が起こり、よりよい成果が上がるのです。カタリストは、スタートアップ企業とシーメンスの両方のマネジメントに深く関与します。当社の投資部門に関わることもあれば、スタートアップ企業の取締役を務めることもあります。

カタリストとしての役割を十分に発揮するには、シーメンスを深く理解していることと、業界とビジネス動向に詳しいことが必須条件です。カタリストには、スタートアップ企業のリーダーが新しいアイデアに関心を持ったり、ある分野でどう行動を起こすべきか迷ったりしたときに、最初の相談相手になってほしいのです。そうした関係があれば、スタートアップ企業は専門的な助言を受けられ、当社はその企業の将来を形づくるサポートができるようになります。いわゆるメンターシップのようなものです。

アントレプレナー(社外起業家)とイントラプレナー(社内起業家)が生み出すイノベーション

──先ほど「共同投資事業」とおっしゃいましたが、単に買収するのではなく、共同投資者としてこうしたスタートアップ企業の創業者と協力していこうとするのはなぜでしょうか。

ハンプトン:重要なのは、新たな企業に当社のエコシステムに参加してもらうときに、そのボートを沈めないことです。イノベーションの多くは、シーメンスのようにグローバルな大企業ではなく、小さなガレージのような空間で生まれるべきです。私たちは企業に対し、そのテクノロジーを十分に成熟させるために必要な場所と時間を提供します。その後、付加価値を高めてくれるパートナーとして彼らを迎え入れるのです。

とはいえ、イノベーションを求めてかなりの数のM&Aも実施しています。ビルディングテクノロジー分野では、この数年間にエンライテッドとコムファイの2社を取得しました。エンライテッドは、主としてビルの照明器具に搭載されるセンサーを開発しています。これは価値ある買収です。というのも、ビルには多数の照明が必要で、あらゆる場所に設置されているため、そこにセンサーが搭載されれば各ビルの膨大なデータを収集できます。こうしたデータはこれまで当社には入手不可能でした。ある部屋が使用中かどうか、施設内の人の流れや施設利用率のパターンがどうなっているかといったことが分かるようになるのです。

次に、これらのデータをコムファイのビル利用者向けアプリと組み合わせます。このアプリは、利用者が自身のオフィス環境をコントロールして快適な状態にできるよう設計されています。人々の座っている場所を感知し、照明や温度を調整したり、会議室やデスクの空き状況をすばやく確認して予約したりできるほか、作業依頼書の提出、保守点検箇所の警告、カフェや授乳室、トイレの場所表示の機能もあります。

機械学習によって、この2つのテクノロジーの組み合わせはさらに素晴らしいものになります。アプリが行動パターンを学習し、さまざまな設定を自動的に調整するようになるのです。これらは全て、既存のビルティングテクノロジーだけでは実現できなかった新技術です。これにより、オフィス環境をより快適にし、エネルギーとコストを節減し、業務の効率を向上することが可能になります。

──このようなリソースをスタートアップ企業の共同投資部門に注ぐ一方で、シーメンス社内から生まれるイノベーションにもきちんと注目しなければなりませんね。

ハンプトン:当社は多種多様な優れたアイデアのネットワークに関与しようとしており、それはアントレプレナー(社外起業家)だけでなくイントラプレナー(社内起業家)についても同様です。シーメンス社内からも数多くのイノベーションが誕生しています。当社の従業員は顧客と直接対話をしながら、彼らが解決すべき問題について学んでいます。こうしたやりとりから生まれるイノベーションは、指揮統制型のトップダウン方式では誕生しえません。現場で働く人々だからこそ生み出せるものなのです。

当社は問題解決のためのテクノロジーを社内からより多く引き出すため、「イントラプレナー・ブートキャンプ」を立ち上げました。8週間にわたるこのプログラムでは、従業員30人がチームに分かれ、まず自分が何に熱意を持っているかを明確にし、そのことに関する知見を、シーメンスとしての問題解決に活用する方法を考えます。

このプログラムから、生涯学習マネジメントツールと火災警報システム向けセキュリティアプリという2件のイノベーションが生まれ、現在事業化に向けた取り組みを進めています。

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シーメンス米国法人CEO バーバラ・ハンプトン氏が語る【後編】データと現場をつなぎ、仮想世界と現実世界のループを完成させることが使命

※strategy+business からの転載記事はPwCネットワークのメンバーファームの見解を示すものではなく、記事中での出版物・製品・サービスへの言及には推奨の意図はありません。

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