スペンサー・フォン 氏Spencer Fung
利豊 CEO

2020年10月05日

Inside the Mind of the CEO

後編利豊(リー・アンド・フォン)CEOスペンサー・フォン氏が語る 不確実性の時代に求められる、オープンな連携と学び続ける姿勢

本記事は、PwCグローバルネットワークのメンバーファーム数社で発行する「strategy+business」(2020年春号)に掲載された記事の抄訳です。原文はこちらからご覧ください(※)。

インタビュアー:アート・クライナー(元「strategy+business」編集長)、マイケル・ワイ・チェン(PwC香港 アジア太平洋地域・香港コンシューマー市場担当リーダー)
写真:利豊提供

インタビューシリーズ「Inside the Mind of the CEO」では、世界各国の企業のCEOにお話をうかがい、不確実性の時代にCEOが重要な意思決定にどう向き合っているのかを探っていきます。
PwCが世界のCEOを対象に実施している「世界CEO意識調査」もあわせてご参照ください。

香港を拠点に世界の流通・小売業を支える老舗商社・利豊(リー・アンド・フォン)のCEO、スペンサー・フォン氏のインタビュー後編では、先行き不透明な世界情勢下でのサプライチェーンの課題や、サステナビリティへの取り組み、自動化と従業員のスキルアップについて聞きました(本インタビューは2019年11月に実施したものです)。

サプライチェーンを数週間で移転できる柔軟性が必要

──グローバルなサプライチェーン・マネジメントに携わる企業のCEOとして、世界貿易の現状には強い関心があることと思います。今後どのように展開していくと見ていますか。

フォン:注目すべきなのは目の前の通商関係の悪化ではなく、長期的な変化だと考えています。中国は過去20年にわたり、グローバルサプライチェーンで優位に立ってきました。高効率、低コスト、スピード、自動化のおかげで、圧倒的な市場シェアを獲得したのです。しかし米中の通商関係がきわめて厳しい状況にあるなか、今後はほぼ全ての商品カテゴリーにおいて、グローバルサプライチェーンの大規模な混乱や再編が起こるでしょう。

生産活動が今後どこの国や地域に広がっていくかは不透明です。どの程度の投資が必要になるのか、シフト先の地域にどれだけ対応能力があるのかにも左右されます。政府の政策、賃金、通貨など、生産拠点の移行先を決定するためには20項目ほどの検討事項があるはずです。

商品カテゴリーによっても状況は異なるでしょう。同じ衣料品でもTシャツ、シャツ、デニムパンツ、カシミアセーターにはそれぞれ別のグローバルサプライチェーンがあります。グローバルな商品調達は複雑化・高コスト化が進み、すでにディスラプションの影響に苦しんでいる小売業者にとってはさらに大きな負担となります。

──こうした試練に、企業はどのように対応していくべきでしょうか。

フォン:企業は資産の配分方法の見直しを迫られています。今後20年間は、資産を多く手元に置かないアセットライト戦略が有利になるでしょう。重要なのは、柔軟性とスピーディーな改革です。現在、サプライチェーンを移転させるには実質2年ほどかかりますが、近い将来、ディスラプションの兆候を察知したら数週間以内に移転できるようにしなくてはならなくなります。さもなければ、先に動いたライバル企業に負けることになるのです。

イノベーションを促進するオープンなプラットフォーム

──プラットフォームプロバイダーとして、インターオペラビリティ(相互運用性)、つまり競合する企業や法域をまたいでオープンなアクセスを可能にすることについてはどう考えていますか。

フォン:当社が構築しようとしているプラットフォームは、当社を含めた数多くの競合企業が参加できる完全にオープンなものにすることを考えています。全てをエンドツーエンドで管理しようとして柔軟性を欠き、イノベーションについていけなくなったソフトウェア企業をいくつも見てきました。今日私が目にするイノベーションのほとんどは、小規模なスタートアップ企業が考案したものです。こうした何百という小さな企業を全て買収するわけにはいきません。

オープンプラットフォームにすれば、顧客に利用の選択肢が生まれます。彼らはみな、データ交換、EDI、API、その他の標準やプロトコルがシームレスに接続された状態でやりとりできる環境を望んでいます。今後プラットフォームを構築する企業は数多く出てくるはずですが、1社だけが優位に立つことはないでしょう。ですから、複数のプラットフォームがシームレスに接続され、連携して機能する必要があります。プラットフォームどうし、領域によって競合したり協力したりすることになるかもしれません。

顧客の理念に沿ったサステナビリティの取り組み

──サステナビリティの問題は、御社の事業や顧客にどのように影響していますか。

フォン:サステナビリティは当社が1990年代から大切にしているテーマです。業界を主導する立場として、まず社会的コンプライアンス、次に環境コンプライアンス、さらにサステナビリティ全般へと取り組みを広げてきました。

業界内のあらゆる環境値を実際に改善できるような新たなテクノロジーや事業モデルが次々と生まれています。3Dサンプリングもその一例です。現在何百というサンプル商品が何千もの工場で製造されていますが、これを3Dサンプルに移行すれば、材料と時間を無駄にせずにすむ上、サンプルの運搬時に航空機が排出する二酸化炭素排出量もゼロにできるのです。

他にも重点的に取り組んでいるのが、デニム製品の製造工程の改革です。デニムの生産には大量の水が使用されており、これに関する調査結果もあります。環境ジャーナリストStephen Leahyの著書『Your Water Footprint』によれば、ジーンズ1本を製造するのに7,570リットルの水が使われています。この水量を10億本でかけ算してみてください。

利豊では現在、レーザー照射技術を使ってジーンズの表面を焼きながらさまざまな柄を表現したり、オゾンによるウォッシュ加工を行ったりといった、水の使用量を低減できる技術の導入に努めています。

──御社は調達事業も手がけていますが、新素材・新材料についてはどうですか。

フォン:当社では現在、プラスチック製の包装材の代替品に注目しています。たいていの衣料品はプラスチック製の袋に包装されて小売業者に配送されるので、年間何十億という数が消費されます。自動化によりエネルギーや原材料の無駄を削減する取り組みにも注目しています。

変化に対応するために学び続ける

──自動化が従業員に与える影響についてはどう考えますか。

フォン:どんな産業にも変化は起こるものであり、企業はその変化に迅速に対応するほど有利です。ただ、人間の役割が全て自動化できるとは考えていません。ロボットが、ある人のあらゆる仕事を引き受けることはできないでしょう。誰もが1人で複数の役割や業務をこなしているからです。一定の業務については自動化を進めています。その場合、影響を受ける社員には、新たなスキルを身に付けられる部署に異動を勧めます。そうすれば、より多面的なスキルを持った人材を育てることができます。

今から3~5年後の企業経営に必要なものを現時点で備えている人はいないと思います。世界は急速に変化しているからです。新たなツールやスキル、ビジネス手法が絶えず登場しています。そのため、個人個人が常に自分自身の再訓練を心がけなくてはなりません。日頃から継続的に、さまざまな媒体を通して学ぶべきです。通学に限らず、オンラインで学ぶ、周りの人々から学ぶ、スタートアップ企業から学ぶなど、方法はさまざまです。学習は永続的なプロセスなのです。

当社の社員には、小規模な学習モジュールの提供を増やしていくと宣言しています。しかしそれだけでは不十分であり、主体的に計画を立てて学習する必要があります。私はよくYouTubeを見て、例えばブロックチェーンのような話題について学んでいます。会社が研修を用意してくれたり、それについて学べるコースを受講したりするのを待っていられないからです。生涯にわたって学び続けることは、決定的な力となります。

──自動化が仕事そのものに与える影響についてはどうですか。

フォン:当社は工場を所有してはいませんが、当社のサプライチェーンでは1万カ所の工場で500万人の従業員が働いています。彼らは、ロボティクスと自動化ソフトウェアの影響を受けています。たいていの国で、労働者の再訓練に必要とされる施策を実行するのは政府の役割ですが、ほとんどの政府が現状に対応できていないと言わざるを得ません。早急な検討が必要でしょう。

経済は多くの地域で、新たなB2Cプラットフォームを基盤としたサービス業中心のものへと移行するでしょう。その一例がテイクアウト食品業界です。新しいフードデリバリーアプリの登場で、自宅で食べるための食事を注文する顧客が増えました。デリバリーに従事する人も増えるでしょう。世界各地で、他にも新たなサービス業の雇用が数多く生み出されています。

楽しみながら進む、改革の長い道のり

──「未来のサプライチェーン」の実現に向けた進捗について教えてください。改革のスピードは十分ですか。

フォン:私は、今進めている取り組みの過程を大いに楽しんでいます。当社は20年にわたってインターネット企業並みの23%という年間平均成長率を達成した後、2019年までの7年間で実質ベースのマイナス成長を経験しました。そして2年半に及ぶ改革を経た2020年、再び回復基調に転じ、7年ぶりに市場シェアを伸ばしつつあります。

現在の当社が他と一線を画しているのは、マインドセットの変革です。競合他社も同様のテクノロジーを利用することは可能です。しかし、顧客は当社の社員と会話を交わした最初の数分間で、マインドセットが他社と違うことに気づきます。この業界では、自身を取り繕って話していてもいずれ伝わるものです。また、3Dデザインなどの領域で成功を収めたことが、当社がこうした技術に精通していることを証明しています。

同時に、改革の道のりは長いことも認識しています。最初の一歩は踏み出しました。今後やるべきことはさらに増えていき、世界は変化し続けますから、常に改革を続けなくてはなりません。

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利豊(リー・アンド・フォン)CEOスペンサー・フォン氏が語る【前編】DXとマインドセットの変革で目指す「未来のサプライチェーン」

※strategy+business からの転載記事はPwCネットワークのメンバーファームの見解を示すものではなく、記事中での出版物・製品・サービスへの言及には推奨の意図はありません。

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利豊(リー・アンド・フォン)CEOスペンサー・フォン氏が語る【前編】DXとマインドセットの変革で目指す「未来のサプライチェーン」

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