スペンサー・フォン 氏Spencer Fung
利豊 CEO

2020年09月28日

Inside the Mind of the CEO

前編利豊(リー・アンド・フォン)CEOスペンサー・フォン氏が語る DXとマインドセットの変革で目指す「未来のサプライチェーン」

本記事は、PwCグローバルネットワークのメンバーファーム数社で発行する「strategy+business」(2020年春号)に掲載された記事の抄訳です。原文はこちらからご覧ください(※)。

インタビュアー:アート・クライナー(元「strategy+business」編集長)、マイケル・ワイ・チェン(PwC香港 アジア太平洋地域・香港コンシューマー市場担当リーダー)
写真:利豊提供

インタビューシリーズ「Inside the Mind of the CEO」では、世界各国の企業のCEOにお話をうかがい、不確実性の時代にCEOが重要な意思決定にどう向き合っているのかを探っていきます。
PwCが世界のCEOを対象に実施している「世界CEO意識調査」もあわせてご参照ください。

今回は、100年以上にわたってグローバルに流通・小売業を支えてきた香港の老舗商社・利豊(リー・アンド・フォン)のCEO、スペンサー・フォン氏に、不確実性を増す新たな世界で価値を生み出し続けるために同社が推進するDXの取り組みについて聞きました(本インタビューは2019年11月に実施したものです)。

PwC米国、起業を経て、老舗商社のDXを主導

あなたが最近購入した衣料品などの消費財は、利豊が管理する製造・物流ネットワークによって運ばれてきたものかもしれません。香港に本社を置く利豊は、中国製磁器とシルクの輸出企業として1906年に創業して以来、グローバルなサプライチェーン・マネジメント(SCM)の先駆的企業であり続けています。

馮氏集団(フォン・グループ)の最大の構成企業である利豊は現在、世界の50以上の地域に約1万8,000人の従業員を擁し、顧客であるグローバル小売チェーンをアジアや他の地域の製造元とつなぐ役割を果たしています。また、昨今の不透明な貿易環境における顧客の経営を支援するソリューションを提供しています。

利豊はデジタルトランスフォーメーション(DX)の先駆者でもあり、最新のテクノロジーを使ったオペレーションの刷新に同社の将来を懸けています。数年間にわたる業績低下と、利豊の顧客と競合する新たなオンライン小売業者の台頭を受け、同社は2017年にデジタル化に着手しました。「未来のサプライチェーン(Supply Chain of the Future)」と名付けられたこのプランを提唱し指揮を執るのは、CEOであり共同創業者のひ孫にあたるスペンサー・フォン氏です。

ちなみに、フォン氏は元会計士であり、そのキャリアのスタートは、PwC米国のボストン事務所でした。その後、スタートアップ企業(アジア全域を対象とする初のオンラインマーケティング・プラットフォームHelloAsia.com、後に廃業)の共同創業者を経て、2001年に利豊に入社、2014年にグループCEOに就任しました。

今回のインタビューは2019年11月、香港にある利豊のグローバル本社で行われました。「未来のサプライチェーン」計画の3つの柱であるスピード、イノベーション、デジタル化について、また、アジアや世界の今後のグローバル貿易・物流に影響を与えるトレンドについて話を聞きました。

世界が違う方向に進んでいる──社外に目を向けて得た気づき

──あなたは大胆な改革を通じて、利豊の経営のかじ取りをしてきました。改革のきっかけは何だったのでしょうか。

フォン:私たちはもともと、会社と業界の両方を変革しようとしていました。何年にもわたる成長を経験した後で企業文化は色あせ、やや自己満足に陥っていました。他の多くの大企業と同様の問題を、利豊も抱えていたのです。

そこで2016年に次期3カ年計画を策定するにあたり、社外に目を向けることにしました。マクロ経済を見て、世界がどんな方向に向かっているのかを考えました。業界のダイナミクスも精査し、グローバルな視点から消費者業界と小売業界で伸びている領域を探しました。そしてテクノロジーに注目したのです。

翻って自社に目を向けると、世界が急速に私たちとは違う方向に進んでいるという結論に至りました。そこで新たな3カ年計画を立て、その柱として考案したのが「未来のサプライチェーン」計画です。デジタル経済への顧客の対応をサポートし、スピード、イノベーション、デジタル化に注力することで、サプライチェーン内の何十億という人々の生活を支えることを目標に掲げました。

若い消費者は待ってくれない。スタートアップ並みのスピードがカギ

──注力領域の1つ、スピードについてはどんな課題があったのでしょうか。

フォン:2つの問題がありました。1つは、内部のオペレーションが官僚主義的で時間がかかっていたことです。私たちは組織の階層をフラット化し、上層部のリーダー間の距離を縮めてコミュニケーションの迅速化を図りました。その目的は、大企業の長所と新興企業のスピードを融合させることでした。そうすれば、以前は6~9カ月かかっていた業務を数時間で終えられます。これについてはほぼ達成できました。

──もう1つの問題は?

フォン:サプライチェーンのスピードです。顧客のために、サプライチェーンサービスの迅速化を図ることにしました。当社の顧客の大半は、衣料・消費財を扱う大規模で著名な小売企業と製造企業です。新たなコンセプトをデザインし、製造し、配送して店頭に届けるには、40週間かかることもあります。しかし、今日の世界においてそれでは長すぎるのです。数年前にはインディテックス(ZARAブランドを有するアパレルメーカー)が、サプライチェーンの速度を10倍にする手法を考案しました。競争に与える影響は圧倒的です。当社は顧客のメリットとなるよう、サプライチェーンに要する時間を30週、20週、さらにそれ以下へと短縮しつつあります。

──どうやってそれだけの短縮を実現したのですか。デジタルケイパビリティを活用したのでしょうか。

フォン:実は、マインドセットを変えるほうが重要でした。インディテックスのサプライチェーンモデルはすでに機密情報ではなく、誰もが知っています。インディテックスにいた人々を数多くの企業が雇いました。しかし、そのやり方をそっくり導入した例はありません。というのも、著名な企業の文化を変えるのは難しいからです。この業界では新しいデザインを商品として納入するまで通常40週ほどかかりますが、そのスケジュールでかまわないという企業がほとんどです。35週であれば上々、30週なら画期的という具合です。しかし彼らの顧客である、とりわけ若年層のファッション消費者の関心は、目まぐるしいスピードで変化しています。インスタグラムで見たトレンド商品を1、2週間なら待ってくれるかもしれませんが、20週は待てないでしょう。

この業界のCEOとしての最大のチャレンジは、マインドセットを変えるよう働きかけることです。まずは社内の経営チーム、次に従業員、さらに当社の顧客やサプライヤーのマインドセットを変えていかなければならないのです。

──しかも、従来のマインドセットを経験していないスタートアップ企業とも競争しなくてはなりませんね。

フォン:そのとおりです。2000年代初めにHelloAsia.comを共同で立ち上げたころは、何の足かせもありませんでした。多額の資金こそないものの、迅速に行動でき、過去の慣習に縛りつけられることもなかったのです。現在、数多くの大企業が同じやり方で改革しようとしていますが、これは簡単ではありません。早めに失敗し、努力の結果からすばやく学び、次の挑戦へ移っていくような企業文化を育てていく必要があります。

デジタル化の最大の課題はマインドセットの変革

──イノベーションも柱の1つですね。

フォン:私たちの事業モデルにおいて、イノベーションはとても重要です。いかにしてこれまでの収益ストリームをいったん壊し、新たな収益ストリームを見出すか。昔であれば「これが当社のサービスです」と顧客に伝え、別のものを求められれば、「すみませんがそれはできません」と言ったものです。しかし今は、顧客の抱える課題をどうすれば解決できるか、私たちも一緒に考えます。顧客が最新のトレンドを知り、ソフトウェアツールを構築し、革新的な商品を作ることができるよう、日々サポートしています。

──デジタル化にはどう取り組んでいるのですか。

フォン:事業をエンドツーエンドでデジタル化する必要があると認識しており、段階を踏んで進めているところです。うまくいかなかったものもありましたが、予想以上に成功した改革もありました。

例えば、アパレルの商品デザインに3Dサンプルを使用し、顧客を支援しています。3Dモデルが着用した回転可能なスーツのバーチャル画像を、ハリウッド映画のアニメーションと同じクオリティのCGI(コンピューターグラフィック画像)で制作したのです。小売業者は画像を見ながら、デザインを修正したり購入を決定したりできます。

──試作したサンプルの実物を配送しなくてよいのですね。

フォン:そのとおりです。大手のアパレル小売企業では、何千種類もの商品を扱うことがあります。以前はサンプルを全て配送して、実寸大の模擬店舗を仮設し、商品が陳列された状態を確認していましたが、そうした作業が今は全てデジタル化されました。CGIの3D画像が1つあれば、最終的に顧客がオンライン上で商品を見るところまで、全プロセスがデジタルで完結します。

──テクノロジーを導入する際に苦労する点はありますか。

フォン:当社を含めた全企業、全業界が現在抱えている最大の課題は、人々のマインドセットを変えることです。デジタル化のプロセスとは、次世代のテクノロジーを構築したり購入したりすることではなく、人々が納得して実際に使えるように働きかけることだと私は気づきました。ERPを導入しようとしたものの、利用する社員側の抵抗で挫折した企業はいくつもあります。私にとって、デジタル化に関する今後数年間の最大の試練は、まず人々にこれらのツールを使う気持ちになってもらうことです。

小さな取り組みから一歩ずつ変革を進め、世界に広げる

──御社はプラットフォームプロバイダーとして数多くの企業と協業しています。彼らのマインドセットを改革するために、どのように働きかけていますか。

フォン:これは容易なことではありませんし、今まさに学んでいるところです。新しいやり方が実際にうまくいくことを証明するには、短期的な効果を示さなくてはなりません。例えば当社が3Dデザインに注目し始めたのは、何年も前のことです。周囲の人たちに試してみるよう働きかけましたが、何も変わりませんでした。1年も経つと周りの関心は薄れ、3Dデザインがうまくいくと信じる人はいなくなりました。

しかし2017年になって、当社は3Dデザインに大きく注力することにしました。私も社内で頻繁に話題にあげ、詳しく掘り下げて語りました。その結果、今では社員はみな3Dデザインの威力を認めており、当社はこの技術を使ったビジネスをリードする存在となっています。現在、サプライチェーンの上流に向けてはトレンド予測モデルの開発、下流に向けては3Dプリンティングや3Dデザインに使用する素材モデルの構築を進め、さらに技術を展開しています。

顧客やサプライヤーに対して、全てを一度に変えるよう求めてはいません。まず1つの部門、商品ライン、ブランドから着手したほうが、迅速で徹底した変革をサポートできます。短期間に成果を上げた後で、1人、また1人と説得し、ティッピングポイント(一気に変化する転換点)まで続けていきます。ソフトウェアのアジャイル開発のようなものです。

──そうした変化を、世界規模でどのように広げていくのですか。

フォン:当社は50を超える国々に従業員を抱え、そこで製造された商品を輸出し、100余りの国々の顧客に販売しています。国によって状況はさまざまなので、ビジネスの細かいニュアンスを理解できるよう、現地でスタッフやマネージャーを採用し、彼らから情報を得ることがとても重要です。

もちろん、可能な限り標準化を進めようと努力しています。ただし、標準化とカスタマイズの適正なバランスを常に保たなければなりません。そのバランスは、地政学、テクノロジー、イノベーション、その他数多くの要因によって変化し続けています。

後編へ

利豊(リー・アンド・フォン)CEOスペンサー・フォン氏が語る【後編】不確実性の時代に求められる、オープンな連携と学び続ける姿勢

※strategy+business からの転載記事はPwCネットワークのメンバーファームの見解を示すものではなく、記事中での出版物・製品・サービスへの言及には推奨の意図はありません。

後編へ

利豊(リー・アンド・フォン)CEOスペンサー・フォン氏が語る【後編】不確実性の時代に求められる、オープンな連携と学び続ける姿勢

トレンドタグ

タグ一覧

Follow us