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鹿島 章Akira Kashima
PwC Japanグループ マネージングパートナー
足立 光 氏Hikaru Adachi
株式会社ナイアンティック シニアディレクター
プロダクトマーケティング(APAC)
島田 太郎 氏Taro Shimada
株式会社東芝 執行役上席常務 最高デジタル責任者
東芝デジタルソリューションズ株式会社 取締役社長
東芝データ株式会社 代表取締役CEO

2020年07月06日

変えることを恐れず、愚直に前進するのみ──デジタルトランスフォーメーションの成功モデル ──PwC グローバル メガトレンド フォーラム 2020より

「デジタルトランスフォーメーション(DX)」は、不確実性が高まる世の中において、ビジネスにおける新しい価値創造やリスクの可視化のため、世界中の企業が取り組む重要なアジェンダとなっている。2020年2月26日に開催された「PwC グローバル メガトレンド フォーラム 2020」のスペシャルセッション「デジタルトランスフォーメーションの成功モデル」では、PwC Japanグループ(以下PwC)マネージングパートナー・鹿島章がファシリテーターを務め、株式会社ナイアンティック シニアディレクター・プロダクトマーケティング(APAC)の足立光氏、株式会社東芝 執行役上席常務・最高デジタル責任者、東芝デジタルソリューションズ株式会社 取締役社長、東芝データ株式会社 代表取締役CEO(最高経営責任者)の島田太郎氏とともに、DXを成功させるための条件や方法論について議論を交わした。

明確な目標とリーダーシップ、エコシステムの構築がDX推進のカギ

スペシャルセッションの冒頭に鹿島は、PwCが提唱するDXの成功モデルとして「顧客視点からの最適化」「プラットフォームの整備」「コアバリューの再定義」という変革実現のための3つのアプローチを示した。

デジタルトランスフォーメーションを成功に導く3つのアプローチ
デジタルトランスフォーメーションを成功に導く3つのアプローチ

これを踏まえ、足立氏は外資系外食チェーンの事業を立て直した自身の経験に触れながら、DX促進のための5つのポイントを解説した。「『デジタル』という言葉を使わない」「戦略の変更はトップダウンで」「『デジタルだけ』を考えない」「明確なKPI設定」「まず自分がデジタル化する」という5項目だ。

まずビジネスの文脈においては「リアル」という言葉はあまり使われない。同様に「デジタル」という曖昧模糊とした言葉を連呼するだけではDXは実現せず、あくまでも全体設計の中で具体的かつ詳細な施策として1つずつ落とし込み、連動させていかなければならない。目的は何かを明確にしてKPIを設定し、その達成に向けてトップダウンで戦略を実行していくことが何より重要になる。その上で、DXを推進する担当者がデジタルに慣れ親しみ、ユーザー目線でツールを使いこなせるようになることが必要だ。足立氏は「『デジタル』かどうかにかかわらず、何かを変革するためには、目標を定めてトップ主導で実践するというプロセスが有効」と強調する。

続いて島田氏は、プラットフォームを重視した東芝のDX推進について紹介した。東芝は、レジのPOSシステムや鉄道の自動改札機などの製品を展開しており、膨大な数のユーザー接点を持っている。そこから得られるデータを活用するために設立されたのが、島田氏がCEOを務める東芝データだ。同社はデータを可能な限りオープン化し、さまざまなプレイヤーの参入を促して、BtoBtoCのサービスを展開するプラットフォーマーとなることを目指している。

「いくら自分たちでソリューションを作っても、ユーザー以上に課題を理解することはできません。自らソリューションを提供することにこだわらず、ユーザーであるお客様自身が最適な方法でデータを活用して価値を生み出せるようなエコシステムを構築したほうが、ビジネスとしてスケールしやすい。そうなってこそ『変革』と言えるのです」(島田氏)

日本企業がDXを実現する上での課題

足立氏と島田氏が共有したDXの要諦に対し、鹿島はキーノートセッションで紹介された経済産業省によるアンケート結果に触れ、日本の9割近い企業が自社のDX推進の方針に関して回答できず、回答があった企業の中でも3分の1しか具体的なビジョンを明示できなかったという状況で、「より大局的に変革を捉えるという視点は、これから推進に取り組もうとする日本企業にとって指針となる」とコメントした。さらに、こうした日本企業がDXを実現する上で固有の課題は何か、それをどう乗り越えていけばよいかという問題提起を行った。

足立氏は、長年外資系企業で働いてきた経験を基に日本の問題点について言及。まず日本と世界では、トップの年齢の違いが企業のDXの進展の差にそのまま表れていると指摘した。

「世界を見回すと、何万人規模の企業でもトップが30代、40代ということが珍しくありませんが、日本のトップは60代以上がほとんどです。年長であることが悪いというわけではありません。しかし日本の60代の方はいまだに新聞やテレビが主な情報源というのが実情で、デジタルへの理解度や使用経験が海外の若い世代の経営者とは根本的に違います」(足立氏)

足立氏によれば、そもそもデジタルネイティブから程遠い60代のトップがDXを推進することに無理があるという。その結果、日本と海外の間では「デジタル格差」が起きている。

鹿島はこうしたデジタル格差の一例として、日本ではパソコンでオンラインショッピングをするユーザーが多い一方、中国ではほとんどがスマートフォン経由であり、モバイル化が圧倒的に進んでいる現状を紹介。「日本のマーケットだけを見ている企業がいまだに多い。もっと世界へ目を向けていかなければならない」と警鐘を鳴らした。それに対し島田氏は、世界のマーケットを攻略するための姿勢を以下のように示した。

「そもそも『日本固有』と考えるべきではないと思います。目の前の分かりやすい課題だけを見るのではなく、根源的な課題まで辿り着くことが必要です。実装の方法に違いはあるにせよ、根底にある課題は日本でも中国でも同じはず。このイベントのテーマでもある『メガトレンド』を見据えた発想ができれば、DXは可能です」(島田氏)

足立氏も、日本市場がこれまでのような規模を維持できず、縮小に向かっていることを考えれば、やはり世界に目を向けるべきだと賛同。南米やアフリカ、東南アジアなど、これから伸びていくマーケットに着目しなければ世界で通用するサービスは生まれないと指摘した。鹿島も日本が課題先進国であるとしつつも、「日本で成功したソリューションを海外で横展開できるのではないかと考える企業も多いが、その発想を捨てなければならない」と同調した。

変革を阻むものは何なのか

では、変革への一歩を踏み出すためには何が必要なのだろうか。島田氏は過去に企業へのコンサルティングに携わった経験から、「日本企業は成功事例を求めすぎる」と指摘。これに対し足立氏も「成功事例が存在していたら、それはすでに新しくありません。まったく違う業界の事例を応用するのであればまだ新しいアイデアにつながりますが、同業他社がやっていることに注目しても二番煎じになるだけです」と述べ、他社や自社の過去の成功事例を一掃すれば新しいことにチャレンジするマインドセットが整うと強調した。

また両氏は、高い目標を掲げることの重要性についても言及した。

「DXを実現するためには、とんでもない目標を掲げることが重要です。もしかしたらできるのではないかという目標では、枠の外に出ていくという機運にならないからです」(島田氏)

「人には変わりたくないという本能があるので、積み上げることで達成できてしまう目標であれば、変わる理由はありません。届かない目標を掲げないと、なかなか動き出さないのです」(足立氏)

足立氏はさらに、任期のある経営層にとっては変革がリスクと捉えられることもあるため、「変えないことによるリスクや、変えることによるベネフィットをきちんと数値化して示す必要があります」と付け加えた。

鹿島は足立氏の指摘に納得した上で、「日本の会社には、全体を大きく変えるのはハードルが高いので、変革のための組織を外側に作るという動きがある」ことに触れ、出島のようなデジタル専門組織の有効性について提起した。それに対し足立氏は、懸念すべき点を挙げた。

「日本企業では、SNSなど新しいツールの活用を一部のデジタル専門部署が主導することが多いですが、それに対して他部署の人たちは無関心であったり、拒否反応を示したりすることもあります。デジタルを一部署に一任することで、かえって全体のデジタル化を阻害する場合もあるので注意が必要です」(足立氏)

「DXを推進するのがアーキテクチャー上不可能であれば、新たに組織を立ち上げるしかありません。東芝は過去5年間にわたり法人の数を減らしてきましたが、今回新しい会社として東芝データを設立しました(2020年2月)。なぜ別会社にしたかというと、この会社をプラットフォームとして、全ての事業のデータを集める仕組みを構築したかったからです。これは出島ではなく“本島”のイメージです」(島田氏)

島田氏は、これはあくまで東芝にとっての最適解であり、何をやりたいかによって処方箋は変わると補足。足立氏も、自身が外食チェーンの再建に取り組んだ際、デジタル部を創設したものの、1年間稼働して実績を作ったところで解散し、全社的にデジタルに取り組む次のステップへ移行したという事例を紹介し、「会社がどのステージにいるかによって、DX推進のための最適な組織はまったく異なる」と述べた。

また島田氏は、デジタル人材についても言及。デジタル人材不足がよく話題になるが、それ自体は大した問題ではないと断言した。

「デジタル人材がいないという話題になると、解決策としてすぐに『若いスタッフを集めよう』『外部から人材を入れよう』『講習を受けさせよう』などという話になりがち。ですが、そういうことでは解決しないと私は思います。お客様からお金をいただく新たな手法を探っていく上で、これまでのやり方をどう変えなければならないかをまず考えること。そうすればデジタルとはそれほど難しいことではない。自分たちの習慣や惰性から、一歩でも外に踏み出せるかどうかが重要なのです」(島田氏)

足立氏もそれに賛同し、デジタル人材に求められる資質について指摘した。

「デジタルとひと言で言っても幅広く、機器もあれば、ソフトウェアもメディアもあり、それら全てが日々変化しています。そうした世界では、理論上“デジタルの専門家”なんて存在しません。人や企業、いろいろなものをつないで絵を描ける指揮者やプロデューサーのような人こそが、DX推進に最もふさわしい人材なのです」(足立氏)

組織のしがらみを取り払い、真実を直視しよう

さらに議論を深めるために、鹿島はPwCが抱える課題について紹介し、DXに取り組んでいる最中であることを打ち明けた。PwCはプロフェッショナル・サービス・ファームとして、企業に専門知識を提供することで収益を上げてきた。しかし今の時代では、インターネットで調べれば無料で専門知識を入手できることも多くなってきている。「専門知識に価値がなくなっていく。受け入れ難いことですが、いずれは必ずそうなります」と鹿島は危機感をにじませる。

「我々の価値を再定義し、どのようにその価値の提供の仕方を変えていくのかを考える必要があります。まだ全員を巻き込むところまでは至っていませんが、課題への意識が高い部門から徐々に、専門知識にデータを掛け合わせて効率を上げるといった形でDXに取り組んでいます」(鹿島)

島田氏はこうしたPwCの取り組みを評価。多くの企業が変化できない理由は、まさに「自分たちの既存サービスに価値が失われつつあることを認められないからだ」と指摘し、DXの難しさを改めて示した。

「自分の首を絞めるようなことをしなければ、DXは実現できません。例えばIoTを取り入れたら、見える化によってスペアパーツなどの需要が減り、売上が下がることもあるでしょう。しかし長期的に見れば、必ず実行すべきなのです。既存のビジネスとある程度のカニバリゼーションが起きるのは仕方ない。それでもなお、新たな施策に着手したほうが将来の利益につながるということを、納得感を持って示す必要があります」(島田氏)

従来とは違う形でマネタイズする方法を考えなければ、組織は動かない。逆に言えば、その道筋をつけられれば転換が可能となるのだ。それゆえに、「最初の出発点がきちんと描けているかが重要だ」と島田氏は力説する。

足立氏もこれに同意し、これまでさまざまな企業の再建を手がけてきた経験から、DXを実現するには「しがらみを全て取り払って、やらなければならないことに愚直に取り組むのが唯一の方法」と提言した。また島田氏は、この「やらなければならないこと」について、企業の内部にいる多くの人たちは本当は分かっているのだと指摘する。

「ずっとその業界にいれば、このままでは立ち行かないことには気づいているはず。それなのに、既存のやり方をやめられない。ビジョンがないというより、真実から目を逸らしているだけです」(島田氏)

鋭い提言が数多く出された本セッション。鹿島は最後に、「DX実現のためには、自社のことだけを見ていてはだめ。社会の中の1プレイヤーとして周囲を俯瞰しつつ、根源的な部分まで課題を探っていかなければならない」とまとめた上で、社内に変革が必要だと理解している人、何をやるべきかを分かっている人がいるはずだということが救いであり、「そうした人たちを集めれば答えを導き出せるというのは、日本企業にとって勇気付けられる状況だ」と締めくくった。

島田 太郎 氏の写真
島田 太郎 氏Taro Shimada

株式会社東芝 執行役上席常務 最高デジタル責任者
東芝デジタルソリューションズ株式会社 取締役社長
東芝データ株式会社 代表取締役CEO

1990年、新明和工業株式会社入社。BoeingとMcDonnell Douglasに出向後、1999年、Siemensの一部であるSDRCに入社し、Siemens KK、ドイツのSiemens本社などを経て、2015年、専務執行役員に就任。2018年10月にコーポレートデジタル事業責任者として株式会社東芝に入社。2019年4月、執行役常務 最高デジタル責任者に就任、現在は執行役上席常務として東芝デジタルソリューションズ社、東芝データ社も所管。自動車、精密機器設計、重工業、ソフトウェアのファクトリーオートメーションのエキスパートとして、大手グローバルメーカーのデジタル化に関するコンサルティングも行う。現在はロボット革命と産業用IoTイニシアチブ、IoTアクセラレーションラボのアドバイザーとしても活動。

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足立 光 氏Hikaru Adachi

株式会社ナイアンティック シニアディレクター
プロダクトマーケティング(APAC)

P&Gジャパン株式会社、戦略コンサルティング・ファーム、シュワルツコフ ヘンケル株式会社の社長・会長などを経て、2015年から日本マクドナルド株式会社にて上級執行役員・マーケティング本部長として業績のV字回復を牽引。2018年9月より現職。株式会社I-neの社外取締役、株式会社ローランド・ベルガーやスマートニュース株式会社のアドバイザーも兼任。

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鹿島 章Akira Kashima

PwC Japanグループ マネージングパートナー

1985年、大手監査法人に入所。監査業務を経験した後、1995年にアーサーアンダーセンビジネスコンサルティング部門へ転籍し、2001年にパートナー就任。べリングポイント株式会社マネージングディレクターなどを経て、2012年にプライスウォーターハウスクーパース株式会社のコンサルティング部門代表、2015年に同社代表取締役に就任。2016年より現職。

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