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阿部 敦 氏Atsushi Abe
富士通株式会社
独立社外取締役 取締役会議長
ギュンター・ツォーン 氏Günter Zorn
日本板硝子株式会社
社外取締役 取締役会議長
高木 和人Kazuto Takagi
PwCあらた有限責任監査法人 パートナー
ショーン・ウィルコックスShaun Willcocks
PwCあらた有限責任監査法人 パートナー

2020年06月22日

リスクに向き合い、企業価値を高めるグローバル・グループ・ガバナンスの高度化に向けて ──PwC グローバル メガトレンド フォーラム 2020より

2020年2月26日に開催された「PwC グローバル メガトレンド フォーラム 2020」では、不確実性が増す世界において日本企業のビジネスに影響を与えうるテーマについて、先進的な取り組みを進めている企業の方々とともにディスカッションを行った。セッションの1つ「グローバル・グループ・ガバナンスの強化」では、グローバル企業での経営経験が豊富な富士通株式会社(以下、富士通)の独立社外取締役 取締役会議長・阿部敦氏と日本板硝子株式会社(以下、日本板硝子)の社外取締役 取締役会議長・ギュンター・ツォーン氏を迎え、親会社単体を中心としたコーポレートガバナンスと、海外子会社を含めたグローバル規模のグループガバナンスにおける両社の事例をご紹介いただくとともに、ガバナンスの高度化と効果的なリスク管理に向けたポイントを議論。PwCあらた有限責任監査法人(以下、PwCあらた)からはガバナンス・リスク・コンプライアンス体制やグローバル内部監査の高度化を支援するパートナーの高木和人がファシリテーターを務め、外資系クライアントを中心に内部監査、ガバナンス・リスク・コンプライアンスサービスをリードしてきたパートナーのショーン・ウィルコックスが知見を共有した。
グローバル規模で不確実性と向き合う企業にとって、企業価値の最大化とリスクの最小化を実現する理想のガバナンスの在り方とは。

自発的なコーポレートガバナンス強化がもたらす企業価値の向上

ファシリテーターを務めたPwCあらたの高木はまず、世界の不確実性が増す中、海外投資の失敗やコンプライアンスに関連する問題によって多額の損失が発生する事例が増えている点を強調。あわせて、コーポレートガバナンス・コードの策定以降、形式的なガバナンスは整備され始めたものの、多様性やグローバル視点の不足など「実質的なガバナンス整備」が日本の取締役会の課題として浮上しているとの論点を挙げた。

富士通の阿部氏は、国内外で長らく社外取締役を務めてきた経験、また現在、富士通で取締役会議長としてコーポレートガバナンスの強化に努めている経験から、「株主、顧客、従業員、社会をステークホルダーとした経営を遂行するための必要不可欠な仕組み」がコーポレートガバナンスの本質だと述べた。そして「非執行取締役による業務執行の監督」「多様な視点からの助言」にガバナンス体制づくりの力点を置くべきだと説いた。

「多くの日本企業は、事故・不正に対する措置として、もしくはアクティビストの圧力により社外役員を受け入れる。しかし外的な要因だけでなく、自発的に客観性・多様性・独自性を進化させることが企業価値の創出につながるという発想が必須です。積極的にコーポレートガバナンスを強化していくためには、執行側の理解はもちろん、担当部門のマインドセットや変化を許容できるコーポレートカルチャーも重要になってきます」(阿部氏)

富士通ではこうした理念のもとでコーポレートガバナンスを進化させてきたという。続いて、日米の法制度、環境、運用状況の違いについて触れた阿部氏は、取締役会の進化のフェーズを3段階に分けて解説する。

第1フェーズは、「執行側からの議案説明が中心で、事前説明などを通じ社外取締役の疑問などには事前に対処し、取締役会では重大な質問や反対意見が出ないことを良しとし、本質的議論が行われない状態」、第2フェーズは「コーポレートガバナンス・コードのチェックリストをほぼすべて満たし、社外役員から質問は積極的に出るものの、執行側の回答がすべてで、議論が深まらない状態」、第3フェーズは「執行側と社外役員の間に実質的な議論が生まれ、具体的なアクションプランまで落とし込まれる状態」だ。

「取締役ならびに取締役会の実効性をいかに担保していくかも重要。米国では取締役会と個々の取締役の評価が体系的に行われています。また取締役は日々、個々に研鑽していく必要があり、富士通では評価および教育プログラムの導入を検討しています。何より、コーポレートガバナンスが進化したことによって企業価値が高まらなければ意味がありません。私としては、その効果を実現し、証明していきたい」(阿部氏)

社外取締役の役割は監督だけではない

阿部氏の発言を受け、ツォーン氏は自身が社外取締役および取締役会議長を務める日本板硝子のケースを紹介。社内で長いキャリアを持つ人は確かな知見を持っているが、限界を超えて企業が成長していくためには社外取締役の役割が重要だと述べた。そしてオープンで活発な議論は時に対立を生むが、それが企業の成長のカギでもあると付け加えた。

「1つ主張したいのは、欧米でうまく機能したシステムが、アジアや日本でうまく機能するとは限らないということ。同じ西洋であっても、企業文化やビジネス文化は異なります。私はドイツ出身ですが、米国的なビジネスのやり方に困難を感じたこともあります。(コーポレートガバナンスを進化させる際)それぞれの国における文化の違いは念頭におくべきでしょう」(ツォーン氏)

ツォーン氏はまた、社外取締役が企業内で果たす役割は「監督にとどまらない」とし、「新しいアイデアをインプットすること、新しい道を指し示すこと」も忘れてはならないとする。同時に「結果のフォローアップ」も重視すべきだと強調した。

「決断が下され、計画が策定されても、何かしらの理由で結果が伴わない場合があります。そのような際、社外取締役は特に入念に精査する必要があります。経営の方向性の確認や改善点の洗い出しなど、社外取締役が機能を果たすべき最も重要な役割が、結果のフォローアップなのです」(ツォーン氏)

価値観の共有やスタンダードの設定による適度な関与がグループガバナンスのカギ

コーポレートガバナンスに続き、テーマはグループガバナンスに移行。持株状況が異なるそれぞれのグループガバナンスの在り方、日本企業のグローバルHR、国境をまたぐグループ全体のリスクの可視化と管理体制などについて議論が交わされた。

阿部氏はまず、日本企業が海外子会社へのガバナンスを強化するためには、現地に経営・運営を任せきりにせず、積極的に関与し、企業哲学や価値観を共有・浸透させていくことが不可欠だとした。特に買収した海外企業をコントロールできなくなるのは、日本企業にありがちなこと。海外子会社のコントロールに長けた人材の配置や仕組みづくりに注力すべきだと述べた。合弁会社の場合は、パートナーとともにステアリングコミッティをつくるなど、会社の育成方針や協力の動機・目標を常に共有しておくことがグループガバナンス強化につながるとした。

一方、日本企業のグローバルHRの役割を問われたツォーン氏は、「ルールやガイドラインを設定し、皆が従うべきスタンダードを決めること」が、グループガバナンスを強化する上で本社が果たす役割だとした。

「例えば、それぞれの国・地域における報酬体系はさまざまなので、本社がすべてを決めることはできません。しかし報酬支払のスケジュールに関するガイドラインなどは、本社が決めるべきスタンダードです。人材開発に関しても、各ローカルの既存スタッフの教育、新卒採用、中途採用のすべてを本社が行うことは現実的ではありません。一方、ほとんどの会社において、一定のコア人材がいるはずで、そうした人材の育成の進捗や評価は本社が監督すべきです」(ツォーン氏)

ここでもツォーン氏は、国・地域の文化の違いに留意することが必要だと指摘する。「必要なHRサービスは国や地域の文化によって異なります。本社の役割は、企業のスタンダードを提示しつつ、ローカルを柔軟にコントロールしていくこと、またフォローアップしていくことです」(ツォーン氏)

リスクに対する共通認識を持ち、可視化して全体を把握

続いて、グループ全体のリスク管理体制の整備、また内部監査のトレンドについて問われたPwCあらたのウィルコックスは、不確実性が増す新たな世界への移行が進む中、経営リスクを最小化するためには、グループ全体が従来の統制を前提とした「規律型組織」ではなく、「自己申告型の組織」にシフトチェンジしていく必要があるとした。また国境をまたぐグループは、地域や所属する組織によって異なったリスク認識をしがちだが、組織全体として同じ視点を共有する方法を確立していくことが、グループガバナンス強化にとって重要だと指摘した。

リスクの共通認識のためにウィルコックスが提唱するのが、「3つのディフェンスライン」をグループ全体で最適化することだ。中でも、セカンドライン(リスク管理部門、コンプライアンス部門)を主軸とした「横串の連携」がカギだとする。

3つのディフェンスライン

「地域や海外拠点ごとではなく、グループ全体としてリスクに対して共通の認識を持つことが何より重要です。そしてそれは、共通したリスク・マネジメント・データベースを持つことと同義。そのためにも、本来の目的を検証しつつ、サイロ化した組織を分析し、コミュニケーションを促すことが重要です。その上でグループとして、どこが連携し、どこが分離しているべきなのか、どれくらいの意思疎通が行われるべきなのかを見直していく必要もあります」(ウィルコックス)

一方、阿部氏は子会社の数が増えるにつれ、その中身を執行・経営側がすべて理解するのは困難だとし、各子会社が取ったアクションをモニターする仕組みを導入し、チェック・アンド・バランスを働かせることこそが、利益最大化とリスク低減に寄与するとした。

「富士通ではこれまで、関係子会社はそれぞれの事業部門の下についていました。しかし、それでは本当のパフォーマンスが見えにくい。そこで各事業部門がスピーディーな決定を行える仕組みをつくりつつも、社長が全体をモニタリングできる関連事業部という組織を設置しました。今後、コーポレートのKPIや一定の基準に照らして子会社を評価する仕組み、例えばヒートマップなどのような形で可視化し、ひと目で把握できるようにしていこうと考えています」(阿部氏)

阿部氏は加えて、リスクを認識することのみならず「リスクに対する対抗手段の有無」も認識することがグループガバナンスを強化する上で有効だと述べた。そして時に、リスクを避けて事業領域を削ることも決断すべきだとした。

真のガバナンス高度化には経営基盤の確立が必須

こうした発言を受け、ウィルコックスは「現代においてリスクはつきもので、悪いことが起きうるのは自明の理」とした上で、「成功する会社とそうでない会社の違いは、リスクとどう向き合うか」だと述べた。重要なのはリスクをいかに未然に防ぐかではなく、問題が起きてしまった際にどう対処するかであり、現在多くの企業役員がこれを学び始めているという。予測不可能な社会においてリスクと対峙していくために「さらなるトレーニング、教育、マインドセットの変革が必要」というのがウィルコックスの提言だ。

最後に高木は「リスクに対するコントロールに重点を置くだけでは、ガバナンスはあまり機能しない事例が多く、その背景として、リスクが存在する拠点の経営基盤自体が脆弱であることが原因となっている」と指摘し、経営基盤を評価する際の5つの観点を紹介した。

経営基盤を評価する5つの観点

これに対し、阿部氏は人材の重要性と育成の難しさを、ツォーン氏はリスク認識における企業文化の役割を強調。高木は「こうした経営基盤に着目し、各拠点が自浄作用としてPDCAサイクルを回し、コントロールが効果的に作用するように、それぞれの会社の成長ステージにあった改善計画が必要になる」と見解を述べ、セッションを締めくくった。

阿部 敦 氏の写真
阿部 敦 氏Atsushi Abe

富士通株式会社
独立社外取締役 取締役会議長

1977年に三井物産株式会社に入社、1982年に米国に赴任し、テクノロジー企業との事業提携や未公開株投資業務に従事。1993年、米国投資銀行のAlex. Brown & Sonsに入社、米国で半導体グループのグローバル統括責任者、TMT部門アジア地域統括責任者を歴任。2001年に帰国し、ドイツ証券会社にて執行役員兼投資銀行本部長を務めた。2004年にJ.P.モルガン・パートナーズ・アジアの日本代表に就任。2009年には株式会社産業創成アドバイザリーを創業し、TMT関連企業に投資銀行業務を提供。

ギュンター・ツォーン 氏の写真
ギュンター・ツォーン 氏Günter Zorn

日本板硝子株式会社
社外取締役 取締役会議長

ドイツ人経営者で、通算27年超日本での業務経験を有する。1991年、製版機器メーカー ライノタイプ・ヘル社の日本法人社長。世界最大の総合印刷機械メーカー ハイデルベルグ社による同社買収後、2000年にハイデルベルグ社のアジア・パシフィック地域の社長に就任。2005年にDHL Japan社の社長に、2006年に同社の日本と韓国を含む北パシフィック副社長に就任し、2009年にz-anshin株式会社を設立。2014年から日本板硝子にて社外取締役を務め、2016年には取締役会議長に就任。2006年から2010年まで在日ドイツ商工会議所会頭。

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ショーン・ウィルコックスShaun Willcocks

PwCあらた有限責任監査法人 パートナー

2011年、PwC英国法人よりPwCあらた有限責任監査法人に転籍し、外資系クライアントへの内部監査、ガバナンス・リスク・コンプライアンスサービスをリード。20年以上にわたり内部監査、監査業務およびリスク管理体制改善に関する助言を行っている。クライアントやPwCの各テリトリーと連携しグローバル案件に対応するとともにPwCの知見を提供。また、グローバルリスクの管理部門、海外子会社、サードパーティのガバナンスを強化する部門に対する支援も行っている。

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高木 和人Kazuto Takagi

PwCあらた有限責任監査法人 パートナー

国内大手監査法人にて財務諸表監査を経験した後、香港オフィスに赴任し、現地日系企業の支援を担当。帰国後、大手外資系日本法人で税務業務を担当し、二国間事前確認制度および税務プランニング業務に従事。その後、大手日系事業会社において海外グループ会社のリスク・コンプライアンス監査、中期経営計画の編成、KPIの設定・評価業務に携わる。現在は、ガバナンス・リスク・コンプライアンス体制やグローバル内部監査の高度化を支援。

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