目次
DXを分解・再定義する日立グループの取り組み
続いて「日本企業のチャレンジ」というテーマのディスカッションでは、株式会社日立アカデミー 代表取締役社長の迫田雷蔵氏が登壇し、日立グループにおけるDXとその実現を支えるアップスキリングの取り組みを紹介。「日立グループはトップの強力なリーダーシップのもと、デジタルで社会課題を解決する社会イノベーション事業でグローバルリーダーになるという目標を掲げている」と語る迫田氏は、DXを実現していくためのポイントを示唆した。

「まず日立グループが取り組んだのはDXのフェーズの分解。DXには、今までにない新たな産業・ビジネスモデルをゼロから生み出す『ビジネスモデルイノベーション』、既存ビジネスモデルを変革することで顧客価値を向上させる『プロダクトイノベーション』、サプライチェーンの再構築など既存ビジネスにおけるプロセスを改革する『プロセスイノベーション』、そして、各プロセスの効率を向上させる『業務改善』の各フェーズがあります。私が見る限り、それらが一緒くたに議論されているような気がしています。フェーズを分解することで、人財育成の対象や方針がはっきりしてくるのです」

日立グループでは、フェーズの整理に基づき、DX推進のための人財像も明確に定義。本質的な課題を発見し、解決策の策定・合意形成・施策評価などを牽引する「デザインシンカー」、AIや数理統計などを駆使しデータを利活用する「データサイエンティスト」、サイバー・フィジカルの両面で企画から運用まで推進・支援する「セキュリティスペシャリスト」、デジタル技術を活用したシステムを設計・実装・運用する「エンジニア」、そしてOT(制御・運用技術)や業務の知識を持ち、現場へのソリューションの適用を推進・支援する「ドメインエキスパート」など、多様な人財の育成を進めているという。
「世の中では、データサイエンティストやセキュリティスペシャリストなど、いわゆる高度デジタル人財にのみフォーカスが当たっています。しかし同時に、課題を発見・定義するドメインエキスパートも相当数必要であり、企業のやりたいことを実装するエンジニアも欠かせません。各人財がトータルで力を発揮してこそ、企業のDXを進める推進力になります」(迫田氏)
日立グループではまた、「従来の事業領域においてもデジタル活用力を強化すべきだと考え、DX推進に注力している」と迫田氏。2019年度にはDX研修体制を整備・拡充し、100講座を用意したという。また2020年度にはケイパビリティのレベル別研修プログラムを開発・提供し、DX関連のリカレント教育を強化している。高度デジタル人財を育成するだけでは不十分であり、全社的にアップスキリングの裾野を広げることが重要というのがその趣旨だ。
個人も、企業も、政府も、誰もが責任を果たすべき課題
セッション終盤に再び登壇したPwCのブレア・シェパードは、瀧島氏、迫田氏の事例紹介や知見の共有を受け、「データからだけでは見えない、日本社会および企業の動きに非常に勇気づけられた」と振り返った。続けて個人のアップスキリングに話題を移し、若者世代と中高年のそれぞれにとって適切なアップスキリングの在り方について語った。

「将来的にコンピューターは自らプログラミングできるようになるでしょうし、研究室で行われている多くの研究も自動化していくでしょう。そう考えると、現在、社会がSTEM(科学、技術、工学、数学)を重視しすぎていて、政治学、社会学、心理学といった人文分野を軽視する傾向にあることが危惧されます。それは結果として、テクノロジーで何をするのかに対する知見が乏しい集団を生み出し、社会にとってネガティブな結果を生み出しかねません。若い人たちには、バランスの取れた“tech-savvy(技術に精通した)ヒューマニスト”を目指すようアドバイスしたいですね」(シェパード)
また中高年世代には、今持っているスキルが仕事につながらなくなったときには、そのスキルをレベルアップさせるだけでなく、全く違う分野に飛び込んで挑戦するという選択肢もある、と提案。そうした挑戦には大きな楽しみも伴うはずだと勇気づけた。
これに対し、木村は「若い世代とともに新しいことを学び続けるのは楽しく前向きなこと」と自身の経験を振り返った上で、「とはいえ、やはりアップスキリングは個人だけの問題ではなく、企業も政府も、誰もがそれぞれの責任として取り組まなければならない大きな課題」と指摘。企業にとっては、この課題に真摯に向き合うことがステークホルダーからの信頼の構築につながると、その重要性を改めて強調した。
シェパードもこれに賛同し、「アップスキリングに取り組まなければ、企業も、国も、個人も重要性を失ってしまいます。『取り組まない』ことの危険性は極めて大きい」と警鐘を鳴らした。
最後に木村は、「企業を取り巻く環境は目まぐるしく変化しています。そうした中でも、社会の課題をしっかりと見据え、責任感をもってそれに取り組んでいけば、信頼の構築とビジネスの成功につながるはずです」とセッションを締めくくった。

- 1
- 2