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シェリル・サンドバーグ 氏Sheryl Sandberg
Facebook COO(最高執行責任者)
Sheryl Sandberg & Dave Goldberg Family Foundation創設者
ボブ・モリッツBob Moritz
PwCグローバル会長

2020年06月01日

後編シェリル・サンドバーグ氏×ボブ・モリッツ対談 心の問題をオープンに語ろう──
誰もが安心して能力を発揮できる職場をどう作るか

FacebookのCOO(最高執行責任者)シェリル・サンドバーグ氏は、夫の死をきっかけに悲しみやつらい体験を乗り越えることの大切さに気づき、非営利団体OptionB.Orgを立ち上げて、逆境にある人たちに心理的サポートを提供しています。個人的な経験や心の問題を、職場でももっとオープンに共有できるようにすべきと語るサンドバーグ氏に、PwCグローバル会長のボブ・モリッツも強く共感。グローバル企業のトップを務める2人が、自身の個人的な体験を交えながら、誰もが支え合いながら安心して働ける職場環境の重要性を語ります。(文中敬称略)
(本記事は、2020年1月、ジェンダー格差の解消を目指すFemale Quotientがダボス会議の会期中に開催した「Equality Lounge®」における「ジェンダーとメンタルヘルス」と題したセッションの内容を再構成したものです)

重要なのは個人的な経験を共有できる環境づくり

サンドバーグ

あなたはメンタルヘルスをとても重視し、熱心に取り組まれていますね。女性のメンタルヘルス、女性への偏見に関わるストレスについて、どうお考えですか。また、依然として家事の大部分は女性がこなしているため、女性の負担が高まっていることについてはどうでしょう。男性が1つの仕事をしているとすれば、多くの女性は2つの仕事をこなしています。どうすれば女性がこのストレスに対処し、乗り越えられるよう支援できるでしょうか。

モリッツ

私が経験したエピソードを1つ、ご紹介したいと思います。ゼロックスのCEOだったウルスラ・バーンズ氏のオフィスを訪ねたときのことです。会議から出てきた彼女は、こう言いました。「どうしたら職員に全力を出してもらえるのでしょう。先ほどの会議に出ていたメンバーのうち、3、4人は明らかに別のことを考えていました。家庭の問題なのか、朝の通勤のイライラを引きずっているのか、何か職場に関するストレスがあるのかは分かりません。はっきり言えるのは、自分の能力を出し切っていないということです。一体、どうすればいいのでしょう」

そこで、彼女とこのことについて有意義な会話をしました。シェリルの質問に答えれば、まず何より、どんな組織であれ、リーダーシップチームにはメンバーが安心して会話ができる環境を整える責任があります。国のリーダーも含め、権限のある立場にいる者は誰にもです。メンバーが声を上げられるようにすること、安全地帯から踏み出せるようにすること、助けを求められるようにすること。これは、リーダーの立場にある者が取り組まねばならない、環境面の課題です。

こうした取り組みの一例を挙げると、PwCの英国法人では2016年から年に一度、「グリーン・ライト・デー(青信号の日)」を実施しています。この日1日、オフィスにいる皆がメンタルヘルスについて安心して会話できる印として腕に緑のリボンを巻くのです。これはメンタルヘルスについて話すと同時に、そうした話に耳を傾ける機会にもなります。メンタルヘルスに注目することは、多くの人に利益をもたらします。

個人的な話をすると、男女の違いに関して言えば、かつての私はおそらく最悪の例でした。何年も前に私は離婚を経験しました。会社では、自分が置かれている状況を誰にも言いませんでした。自分ですべてを背負い込もうとしたのです。それが男のエゴによるものだったのかは分かりませんが、これは2つの意味で最悪の決断でした。第1に、私自身にとってよいことではありませんでした。私に支援や手助け、助言を与えようとしてくれた人はたくさんいたのです。第2に、ロールモデルとして最低でした。離婚から何年も過ぎてから、当時の経験を話す機会がありました。ダイバーシティに関する集まりにパネリストとして参加したとき、初めてこの話をしてみようと思ったのです。

その2年後、ある人が私のところへ来て、こう言いました。「ボブ、あの話をしてくれてありがとう。私はあのとき、まったく同じ状況にあった。おかげで考えを変え、PwCの中で助けを求めることができた。皆がアドバイスをくれた。そしてやるべきことはないかともう一度考え、夫と一緒にカウンセリングを受けた。結婚生活は今も続いていて、夫とはうまくやっている」と。思い切って話をしたことが役に立ったのだと知って、とてもうれしかったですね。

個人的な経験を安心して共有できるようにするためには、何よりも環境が重要です。より多くのことを共有できるほど、より多くのサポートを得ることができます。

つらい経験をした人には、ためらわず声をかけていい

モリッツ

差し支えなければ、もう少し個人的な話に立ち入ってもいいでしょうか。あなたはパートナー(元SurveyMonkey CEOのデイブ・ゴールドバーグ氏)を亡くされたとき、大変困難な時期を過ごされました。ご自身の感情面でも、周囲の反応の面でも、新しい経験をたくさんされたことと思います。その経験や教訓について、お話しいただくことはできるでしょうか。

サンドバーグ

あなたは離婚の話を秘密にしていたとおっしゃいましたが、夫が亡くなったとき、私には彼の死を伏せておくという選択肢はありませんでした。夫の死は広く報じられましたし、私も公の活動をしていました。もし『リーン・イン』を書いていなかったら、もし人前に出る仕事をしていなかったら、きっと親しい人の間だけにとどめておいたでしょう。でも、私にその選択肢はなかったのです。

この話題に触れないことは、あまりにも不自然でした。デイブが亡くなる前は、私がオフィスに行くと誰もが話を始めたものです。デイブが亡くなった後は、私が入っていくとすべての部屋が静まり返りました。皆、何を言っていいか分からないから何も言わない。怖かったんですね。そこで気づいたのは、たとえ職場であっても、人生の難局にある人に言葉をかけないのは間違いだということです。

夫の死から4年半が経ちます。毎日、デイブのことを思います。幸運なことに、私は新しい、とてもすばらしい関係を見つけることができました。でも、だからといって「ご主人のことは残念でした」と誰かに言われて、「あら、忘れていたわ」ということにはなりません。彼を忘れることなどないのですから、他人の言葉で夫の死を思い出すことはありえないのです。あなたの隣の席にがんをわずらっている人がいたとしましょう。あなたが「今日の調子はどう?」と声をかけたとしても、その言葉で自分ががんだと思い出すということはありません。今回の経験をするまで、私は職場では重い話はしないようにしていました。そういう話は、相手につらい経験を思い出させてしまうと思っていたからです。でも、思い出させるというわけではないのです。

私たちはお互いにもっとオープンになる必要があると思います。人によっては誰にも話してほしくないかもしれないし、話したいときも話したくないときもあるかもしれない。でも、いつでも助けになりたいと思っていること、同僚としてできることは喜んでしたいと考えていることを相手に伝えるのは、とても重要だと思います。

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困難は人を成長させる

サンドバーグ

もう1つ理解してもらいたいのは、非常に困難な経験の後には、すばらしい成長が待っているということです。「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」という言葉は聞いたことがあるかと思いますが、「心的外傷後の成長」はどうでしょうか。PTSDは実在する病気であり、よく知られていますが、発症率は非常に低く、何らかの困難を経験したからといってPTSDを発症するとは限りません。

一方、困難を経験した人の半数以上は「心的外傷後の成長」を経験すると言われています。その事象の発生前と比べて、人生の何らかの側面が改善するのです。もし夫が帰ってくるなら、私はこれまでに学んだことのすべてと引き換えにするでしょう。でも、その選択肢はありません。それでも私の人生のいくつかの部分は、確かに以前よりもよくなったのです。

今年、私は50歳になりました。46歳のときに突然夫を失っていなければ、私は他の50歳の友人たちと同じように50歳を迎えたでしょう。「ああ、最悪。白髪だらけのおばあちゃんになっちゃった」なんて言いながら。でも、今の私には50歳になったことは喜びでしかありません。誰しも年を取ることについて冗談を言ったことがあるでしょう。でもそんな冗談を二度と言わずにすむようになる、贈り物があります。私たちには年を取るか取らないか、どちらかしかありません。つまり、毎年誕生日を迎えられること、それこそが贈り物なのです。

私は突然の悲劇的な喪失を経験しました。私が人生の大きな部分を失ったことに間違いはありません。子どもたちの父親を、私の夫を失いました。でも、1日1日を前よりも感謝して過ごしていますし、仕事でも家庭でも、前よりずっと強くなりました。この最悪の出来事を乗り越えたのだから、どんな困難も切り抜けられるはずだと分かっているからです。

困難のさなかにある人がいたら、そのことを心にとめて、彼らは強くなりつつあるのだと考えて接してほしいと思います。これはとてもありがたい機会です。私たちを沈黙や痛みから引き離し、同僚こそが本当の支え合う仲間になってくれたのです。これこそ私たちが職場で起こすべき、重要な変化だと思います。

モリッツ

とても個人的な話をしていただき、ありがとうございました。また、困難な経験を通じて学んだことを共有してくださったことにも感謝します。あなたのお話は、今日のテーマであるジェンダーはもちろん、私たち全員に関わるメンタルヘルスの観点からもとても重要なものでした。これは会場にいる男性、女性、あるいはその他の方々にも等しくあてはまるものです。自分の中で考えを深めるだけでなく、周りの人と共有することがとても重要です。自分の中にとどめるのではなく、今日のアドバイスをぜひ周りの方にも伝えてください。

メンタルヘルスの概念は、各人が意識を高めるだけでなく、共有することが重要です。誰もがストレスのさまざまな側面にそれぞれの方法で対処しているからです。シェリルがロールモデルであったように、皆さんにもぜひロールモデルになっていただきたい。何をすべきか、何を改善すべきか、どう改善するかを考え、こうした経験をどんどん共有していきましょう。どこで働いていようと、どこに住んでいようと、こうした経験を同僚と共有し、次の世代に伝えていくことが重要です。今日の対話は、さまざまな特性を持つ人たちについて考えるとき、ダイバーシティやジェンダーといった問題を考えていくときに大いに役立つはずです。

シェリル、今日は来てくださってどうもありがとう。感謝します。

サンドバーグ

ありがとうございました。皆さん、どうもありがとう。

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シェリル・サンドバーグ氏×ボブ・モリッツ対談【前編】真の女性活躍のために、リーダーが果たすべき責任とは

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シェリル・サンドバーグ 氏Sheryl Sandberg

Facebook COO(最高執行責任者)
Sheryl Sandberg & Dave Goldberg Family Foundation創設者

米国財務省首席補佐官、Googleのグローバル・オンライン・セールスおよびオペレーション担当副社長などを経て、2008年にFacebookにCOOとして入社。2012年には同社で最初の女性取締役に就任した。著書に『LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲』『OPTION B(オプションB) 逆境、レジリエンス、そして喜び』などがある。

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ボブ・モリッツBob Moritz

PwCグローバル会長

1985年に入所以来、一貫してPwCでアシュアランス分野におけるキャリアを積み、主に金融サービス業界を担当。日本にも3年間駐在し、日本やアジア地域で事業を展開する多数の欧米系金融サービス企業に監査およびアドバイザリーサービスを提供した。PwC米国アシュアランス部門の責任者、ニューヨーク地域のマネージングパートナーを経て、2009年にPwC米国の会長兼シニアパートナーに就任。2016年より現職として、157カ国に27万6,000人以上のスタッフを擁するPwCグローバルネットワークをリードする。Center for Audit Quality(CAQ)の理事会会長を2期務めたほか、Business Roundtable、Oswego College Foundation、Conference Boardなど多くの組織で要職に就く。また世界経済フォーラムでも、Partnering Against Corruption Initiative(PACI)のVanguard CEOを務めるなど積極的に活動している。米国公認会計士(ニューヨーク州、ニュージャージー州)。

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