対談風景の写真
シェリル・サンドバーグ 氏Sheryl Sandberg
Facebook COO(最高執行責任者)
Sheryl Sandberg & Dave Goldberg Family Foundation創設者
ボブ・モリッツBob Moritz
PwCグローバル会長

2020年05月25日

前編シェリル・サンドバーグ氏×ボブ・モリッツ対談 真の女性活躍のために、リーダーが果たすべき責任とは

FacebookのCOO(最高執行責任者)として活躍しながら、LeanIn.OrgとOptionB.Orgという2つの非営利団体の活動を通じて女性のエンパワーメントやグリーフケアを推進するシェリル・サンドバーグ氏。『LEAN IN(リーン・イン)』を出版してから7年を経た今も、女性を取り巻く環境にはいまだ課題が山積していると言います。ジェンダー格差の解消のために、組織のリーダーたちは何をすべきなのか。グローバルネットワーク全体でダイバーシティ&インクルージョンの実現に注力するPwCグローバル会長のボブ・モリッツと、無意識の偏見を克服する責任やMe Too運動からの教訓について語り合います。(文中敬称略)
(本記事は2020年1月、ジェンダー格差の解消を目指すFemale Quotientがダボス会議の会期中に開催した「Equality Lounge®」における「ジェンダーとメンタルヘルス」と題したセッションの内容を再構成したものです)

女性をエンパワーするサークルと、無意識の偏見と闘うための支援プログラム

モリッツ

シェリルと最初に会ったのは、『リーン・イン』が出版されたときでしたね。

サンドバーグ

ボブとは面識はありませんでしたが、彼が『リーン・イン』を読み、企業がいかにリーン・インを必要としているかを書いた記事をLinkedInに投稿したんです。それを読んで私から連絡を取り、以来、一緒にいろいろな活動に取り組んでいます。

モリッツ

『リーン・イン』は非常に学ぶところの多い本でした。まずは、この本を執筆した経緯、そして女性たちが支え合う「サークル」のコンセプトについて教えていただけますか。

サンドバーグ

本を書くのは初めてでした。この本を書いたのは、世界を動かしているのは依然として男性で、適切な数の女性がリーダー職に就けていないということを伝えたかったからです。出版したのは2013年ですが、状況はまだ変わっていません。実際のところ、この40年間、ずっと変わっていないのです。

どの国でも、企業のトップであるCEO(最高経営責任者)の女性比率は5~7%にすぎません。国会議員の女性比率は20~35%、国家元首にいたっては、たいていの場合、わずか一桁です。私たちはもっと多くの女性をリーダー職に送り込んでいく必要があります。

私の目的は本を書くこと自体ではなく、女性のために何かをすることだったので、「リーン・イン・サークル(Lean In Circles)」というオンライン・プラットフォームを立ち上げました。サークルには誰でも参加できますし、新しいサークルを作ることもできます。今や、サークルの数は4万6,000を突破しています。

サークルの目的は、女性たちが互いに助け合えるようにすることです。職場では男性のほうが女性よりもメンターやスポンサーに恵まれやすいことが分かっていますが、この状況を正していく必要があります。その点で、ボブのようなすばらしい男性たちの努力により、変化が起こりつつあります。

一方で、女性自身も自分の野心を達成し、意欲的に仕事をしていくために、あらゆる手を尽くす必要があります。世間では相変わらず、女性が野心を持つことは歓迎されていません。野心は男性が持って初めて称えられるのです。ここで力を発揮するのが、このサークルです。サークルに参加した女性の86%が最初の6カ月間で人生によい変化が起きたと言い、3分の2が新しいことにチャレンジしたいと言っています。

PwCにもたくさんのリーン・イン・サークルがありますね。PwCでの経験や取り組み、その中でサークルが果たしている役割について教えてください。

モリッツ

PwCでは、ジェンダーを含むダイバーシティ&インクルージョンが重要なテーマになっています。PwCはグローバルネットワーク全体で約27万6,000人の従業員を擁していますが、ネットワーク内に何百ものリーン・イン・サークルがあります。このサークルが持つ助け合いの精神のおかげで、ジェンダー問題に関する機運が高まり、前向きのエネルギーが生まれています。

しかし、サークルだけでは十分ではありません。PwCが組織として何に注力していくべきかを広い視野から考えたとき、他にもいくつかの必要な要素があることが分かりました。それは、LeanIn.Orgが注目しているテーマとも重なっています。Lean Inのウェブサイトに、無意識の偏見と闘う50の方法を書いたページがありますね。組織が活用できる有益な情報の詰まった、すばらしいページです。PwCでは人事評価のシーズンが近づくと、評価ミーティングの前に必ずこのページに目を通すよう周知しています。

私は、プログラムやイニシアティブに頼るよりも、人間の行動や善性を信頼したいタイプですが、こうしたプログラムの必要性は認めざるを得ません。私たちの周囲には誤った方向へ導こうとする強力な力が働いていますし、無意識の偏見もあります。ですから、しかるべきプログラムを整備する必要があるのです。

そのため、PwCではダイバーシティ&インクルージョン、特に女性に焦点を合わせた支援プログラムをいくつも展開しています。例えば、数年前に立ち上げたプログラムでは、組織内の白人男性に「スポンサー」の役割を務めてもらうことを目指しています。スポンサーはメンターとは異なり、よいアドバイスをするだけでなく、相手が成長できるよう自ら行動を起こします。人々にチャンスを、そしてチャンスをつかむための支援を提供するためには、スポンサーの具体的な行動が必要なのです。

「はしごの1段目」を直さなければ、トップの女性比率は変えられない

モリッツ

組織に欠かせないものとして、私はデータと説明責任にも注目しています。例えば、上級リーダーのパイプラインに十分な数の女性候補者が含まれているか、現在の評価者やリーダーは充実したパイプラインを構築できているか、候補者を育てる環境を作っているか。こうした点に関するデータは揃っていますから、リーダー職にある人はそれに対して説明責任を持たなければなりません。彼らは個人として、プロフェッショナルとして、インクルーシブな組織を実現するために正しいことをする責任を負っているのです。

女性たちが職場で男性とは異なる経験をしていることは、私もあなたも認識しています。あなたの見解を教えていただけますか。

サンドバーグ

私が運営するLeanIn.Orgは5年前から毎年、職場の女性に関するものとしては最大規模の調査を実施しています。ボブが言ったように、データが明らかにするものはとても重要です。私たちの調査で浮き彫りになったのは「壊れたはしご」、つまり、初めて管理職に上がる女性の少なさでした。これはこれまで見過ごされてきた重要なポイントです。

初めて管理職のポジションに就く男性を100人とすると、女性は72人、黒人女性に限れば58人です。つまり、組織のはしごの1段目、最初のレベルの管理職になるステップを修正しない限り、より上位のディレクターやバイスプレジデントに昇進する女性の数を適切な水準に引き上げることはできません。

現在の状況の背景に偏見があることは見逃せない事実です。データがはっきり示しているとおり、女性は労働市場に入った時点ですでに男性と同水準の給与を得ておらず、退職時の職階も男性を下回っています。自分の待遇について組織と交渉することもありません。しかも、多くの女性は一度も昇進していない。これは男性か女性かによって、私たちがイメージする成功の原因がまったく違うためです。

男性が成功すると、本人も周囲も、それは本人が持つスキルのおかげだと考えます。一方、女性が成功すると、本人も周囲も本人の努力と他者からの支援、そして運がよかったおかげだと考えるのです。スキルがあれば昇進できる。だからこそ、男性は潜在能力に基づいて昇進しますが、女性は実際に成果を出して初めて昇進するのです。これが一般社員から管理職への最初のステップアップが重要である理由です。管理職にならなければ、管理職としての能力は証明できません。組織のはしごにおけるこの壊れた1段目にこそ、私たちは本当に注力しなければなりません。この1段目を直さない限り、数字は永遠に変わらないのです。

対談風景の写真

女性と会議をするのが怖い? Me Tooがもたらしたもの

モリッツ

このテーマをここ数年に起きたこと、つまり、Me Tooの観点から捉えてみたいと思います。Me Tooはジェンダーの観点から新たな問題を浮き彫りにしました。この運動が注目を集めるようになってから、LeanIn.Orgが学んだことは何でしょうか。

サンドバーグ

Me Tooはもちろん非常に重要です。特に初期の影響は大きかったのではないでしょうか。この運動のおかげで、助けられた女性もいるでしょう。長年許容されてきた問題行動が、最近は減ってきたと思います。ただし、完全になくなったわけではありません。この運動はまだ世界中に広がっておらず、深める余地があります。雇用者に理解がない場合や接待が重視される環境で働いている場合、こうした行為は依然として蔓延しており、まったく変わっていません。やるべきことはまだたくさんあります。

一方、この運動がもたらした予期せぬ結果についても、多くを考えさせられます。私がMe Too運動のずっと前に『リーン・イン』を書いたときは、男性の重役やCEOなど、名のある男性たちから個人的に電話がかかってきて、「君の言うとおりだ。本を書いてくれてありがとう」と言われることがよくありました。彼らは口を揃えて、「男性部下が仕事上の問題を抱えているときは飲みに連れていく」「女性部下が仕事上の問題を抱えているときは電話をかける」「出張は女性よりも男性の部下と行くほうが多い。変な目で見られたくないから」と言いました。こうした問題が背景にあるのです。どちらが昇進するかと言えば、一緒に出張に行くほうです。つまり、上級職の男性が若い女性部下と安心して仕事ができるようにする必要性は、すでに認識されていたのです。そこにMe Tooが起こりました。

そこでLeanIn.Orgでは、Me Too以降、2度の調査を実施しました。最新の調査では、驚くべきことに米国の男性管理職の実に60%が、「会議をする」といったごくありふれた日常業務ですら女性と一緒にすることを恐れていると回答したのです。会ったことのない人の推薦で昇進した人や、会ったことのない人を昇進させたことのある人はいませんよね。Me Tooはとても重要ですが、「女性に嫌がらせをしない」だけでは足りません。これは、いわば最低限のことです。男性は女性を無視することも許されません。女性を切り離し、恐れから上司・部下の関わりを完全に不公平なものにしたらどうなるでしょう。米国の上級職の男性は、若い女性部下と夕食に行くことを男性部下と行くときの5倍躊躇しており、一緒に出張に行くとなれば7倍も躊躇しています。この場合、男性と女性、どちらが昇進する可能性が高いでしょうか。

憂慮すべきことに、状況は後退しつつあります。こうした数字は1年前から減少するどころか、上昇しています。しかも、世界中で同じことが起きているのです。

モリッツ

個人的な観点からコメントさせてもらうと、私にはスポンサーの役割を務めている女性がたくさんいます。しかしMe Too運動が話題になり、広く注目を集めるようになったころ、私も彼女たちと会議をしても大丈夫だろうかと考えたことがありました。

サンドバーグ

ボブほどハラスメントとは無縁の、良心の持ち主でもそう考える。これが今、起きていることなのです。

モリッツ

そして一息置いて自問自答し、こう結論しました。先ほどシェリルが言ったように、いや、これは間違った答えだと思ったのです。そして私自身が躊躇したこと、それでも別の行動を取ったこと、その理由や経緯を他の人と話そうと思いました。

サンドバーグ

それはさすがですね!

モリッツ

そこで何人かと話をしたのですが、たいてい議論になりました。リーダーの立場にある男性たちには、こう言っています。誤った推測や根強い偏見を乗り越えるための策を考え、実行することが君たちの仕事ではないのか、と。ここでもまた、企業、政府、コミュニティのあらゆるレベルにおいて、適切な環境を整えるというリーダーの責任はまだ十分に果たされていないのです。

後編へ

シェリル・サンドバーグ氏×ボブ・モリッツ対談【後編】心の問題をオープンに語ろう──誰もが安心して能力を発揮できる職場をどう作るか

後編へ

シェリル・サンドバーグ氏×ボブ・モリッツ対談【後編】心の問題をオープンに語ろう──誰もが安心して能力を発揮できる職場をどう作るか

シェリル・サンドバーグの写真
シェリル・サンドバーグ 氏Sheryl Sandberg

Facebook COO(最高執行責任者)
Sheryl Sandberg & Dave Goldberg Family Foundation創設者

米国財務省首席補佐官、Googleのグローバル・オンライン・セールスおよびオペレーション担当副社長などを経て、2008年にFacebookにCOOとして入社。2012年には同社で最初の女性取締役に就任した。著書に『LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲』『OPTION B(オプションB) 逆境、レジリエンス、そして喜び』などがある。

ボブ・モリッツの写真
ボブ・モリッツBob Moritz

PwCグローバル会長

1985年に入所以来、一貫してPwCでアシュアランス分野におけるキャリアを積み、主に金融サービス業界を担当。日本にも3年間駐在し、日本やアジア地域で事業を展開する多数の欧米系金融サービス企業に監査およびアドバイザリーサービスを提供した。PwC米国アシュアランス部門の責任者、ニューヨーク地域のマネージングパートナーを経て、2009年にPwC米国の会長兼シニアパートナーに就任。2016年より現職として、157カ国に27万6,000人以上のスタッフを擁するPwCグローバルネットワークをリードする。Center for Audit Quality(CAQ)の理事会会長を2期務めたほか、Business Roundtable、Oswego College Foundation、Conference Boardなど多くの組織で要職に就く。また世界経済フォーラムでも、Partnering Against Corruption Initiative(PACI)のVanguard CEOを務めるなど積極的に活動している。米国公認会計士(ニューヨーク州、ニュージャージー州)。

後編へ

シェリル・サンドバーグ氏×ボブ・モリッツ対談【後編】心の問題をオープンに語ろう──誰もが安心して能力を発揮できる職場をどう作るか

トレンドタグ

タグ一覧

Follow us