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佐々木 亮輔Ryosuke Sasaki
PwCコンサルティング合同会社 パートナー
組織人事・チェンジマネジメント
長谷川 文二郎 氏Bunjiro Hasegawa
一般社団法人42 Tokyo 事務局長

2020年05月11日

後編長谷川文二郎氏×佐々木亮輔対談 ポジティブなストーリーの積み重ねが変革につながる

パリ発のエンジニア養成機関「42(フォーティーツー)」は高度なプログラマーの養成を目的とするのではなく、人を巻き込みながらお互いの能力を高め、正解のない課題を解くヒューマンスキルを高めることを目指しています。42出身者の多くは、世界をリードするイノベーティブな企業で活躍したり、自ら起業したりして、その高い能力を社会で発揮しています。個を生かすことが課題といわれる日本企業に42出身者が入社することで、どのような化学変化が起きるのでしょうか。後編では日本企業が進むべき方向性やこれからの時代に求められる人間の能力、42 Tokyoが果たすべき役割について、42 Tokyo事務局長の長谷川文二郎氏とPwCコンサルティング合同会社で組織人事・チェンジマネジメント分野のリーダーを務める佐々木亮輔が語り合います。(文中敬称略)

バグに対処することでシステムは強くなる

佐々木

勉強は学校を卒業したら終わりと考えてしまう人が多いですが、本来教育とは学び続けるマインドセットを身につけさせるべきで、そのほうが重要ですよね。42も知識のインプットが目的ではなく、人と人との刺激から学びを得るマインドセットが染みつくから、卒業後も学び続けられるのではないでしょうか。

長谷川

そうですね、私自身もそういうマインドセットは染みついていると思います。ただ、私が42に入って気づいたのは、教育も社会もいろいろな形があっていいんじゃないかということです。例えば、Piscine(ピシン、フランス語でプールを意味する42の入学試験制度の名称)を受けると「溺れる」人も出てきますが、その人がダメなわけではなく、ただそのプールに合わなかっただけで、別のプールでは泳げることもあります。社会も同じで、この社会で受け入れられなくても、別の社会はあるし、そこへ行けばいいのではないか、と。佐々木さんは、どうお考えですか。

佐々木

まさにそうだと思います。今、大企業は「イノベーティブな人材」を欲していますが、そういう人材の生かし方が分からないというか、受け入れる準備がほとんどできていないように思います。そのため、これまでにない考え方を持っている人材が「異物」扱いされてしまうこともあります。でも、おっしゃる通りその人がダメなわけではないので、もっと合うところへ行けばいいだけです。例えば、スタートアップやベンチャー企業は大企業と違う価値観があるので、そこで実力を発揮するのも1つの手段です。日本では大企業とスタートアップのギャップが大きく、コミュニティも分断されているといわれますが、42の出身者がそこをブリッジする存在になったり、既存の枠組みとは異なる新しい世界観を示してくれたりするのではないかと期待しています。

長谷川

映画『マトリックス』のように社会をソフトウェアに例えると、42の生徒は今おっしゃったように異物、つまりバグとして扱われることがあるかもしれません。しかしバグが駆除されるとは限らなくて、脆弱性を突いて新しい価値を生み出したり、アップデートが行われてシステム全体のパフォーマンスが上がったりする可能性もあると思います。大企業が自力で必死に変わろうとしても好転しない状況にあるとき、一種のバグを受け入れるのは、むしろ健全な気がします。

組織が変われるかどうかは共感の輪にかかっている

佐々木

異物が入ってきたとき、組織が変われるか変われないかは、それに共感する人の存在にかかっていると思います。長谷川さんと亀山さん(42 Tokyoの設立を支援したDMM.comグループの創業者兼会長 亀山敬司氏)のように、同じ価値観で結びつき、この人と一緒なら何かできると思える共感の輪が広がれば、企業や組織も変わることができる。42ではコミュニケーションや関係づくりといった右脳的スキルを養いながら常にそういう経験ができるから、どんな環境に置かれてもゲームチェンジャーになれるのではないでしょうか。『マトリックス』でも主人公のネオは最初は自分に世界を変えられるのか分からず、自分で気づいて行動を始めると一気に世界が変わっていきますが、それもトリニティ(ネオの仲間)と出会ったからこそ可能になったといえるかもしれません。だから、変化を起こすのは結局、人と人のつながりなんですよね。人から影響を受けて、それが変化への力になることに気づけるかどうかが大事だと思います。

長谷川

佐々木さんは長年多くの企業を見てきていらっしゃると思いますが、現在、日本はよい方向に変わっているのでしょうか。

佐々木

その芽は出てきていると感じています。上層部が率先して「変わらなくてはいけない」と行動している会社は増えていますし、40代の起業家がユニコーンと呼ばれるような企業をつくり、それをミレニアル世代が追随することで、大きな流れができつつあります。そういう意味で、今はまさに価値観の変わり目です。ただし、その芽はまだ小さいので、これからそれをどれだけ大きく育てられるかが、日本が変わるポイントになると思います。

長谷川

そういうポジティブな芽が出ていることを、メディアがもっと取り上げたほうがよいですよね。日本のメディアはネガティブな問題ばかり取り上げている気がします。

佐々木

結局、日本人はイシュードリブンなんですよね。「ここに問題がある」と指摘したほうが、次の行動につなげやすいんです。でもそれではどうしてもネガティブ思考になってしまう。それよりも、「うちの会社はここがよい」と強みにスポットライトを当てて、その強みを伸ばしたほうがいいと思います。そうすることで、弱みが相殺されていくはずですから。私が所属するPwCコンサルティングでも今、社内の若手のコミュニティが中心となって、会社でのポジティブな体験を共有し、それをベースに変革につなげていくという活動を進めているのですが、そういうことがほかの企業や業界でもっと広がってほしいと思っています。

長谷川

問題にばかり目が行くというのは、まじめなんでしょうね。1日が終わって柔らかい布団に入れれば幸せ、と思えばいいのに。

佐々木

本当はいい経験をしているのに、気づけないんですね。そうなると、42のピアレビューでもそうだと思いますが、フィードバックのやり方が重要になってきます。どうやってポジティブなフィードバックをしてパフォーマンスを上げられるか。その点では、従業員同士で貢献を評価して報酬を送り合うピアボーナス制度を取り入れる企業が増えてきているのはいい兆しですね。

対談風景の写真

ストーリーの共有から生まれる価値

佐々木

42 Tokyoが開校して、日本に与えるポジティブな影響は何だと思いですか。

長谷川

抽象的な表現ですが、日本の自信の1つになると思います。手前みそですが、完全無料で教育が受けられるというのがまずポジティブですし、そこに集まった人たちがお互いに学び合い、高め合っているというのもポジティブです。これを呼び水にして、ポジティブな変化を日本中に広げたいという思いはあります。

佐々木

無料とはいえ、そこに集まってくる人たちは価値ある時間や労力を出し合っているわけですよね。それを可能にするには、自身の課題やスキルをオープンに共有できる心理的な安全性が保たれている必要があると思うのですが、42ではそれをどうやってつくっているのですか。

長谷川

ストーリーだと思います。42の場合、最初にPiscineという大きなストーリーを全員が共有しています。その中はジャングルのようなところで、ある日突然火山が噴火したり、大雨が降ったり、いろいろなことが起きるので、「あのときのあれ」と言って通じるようなストーリーを、生徒たちが共通体験として持っています。それが濃い心理的安全性につながっていると感じています。

佐々木

AIが進化して左脳的な処理をすべて代替し、シンギュラリティを迎えたときに、いったい人間にどんなスキルが求められるのかを考えると、アイデアを出すとか、経験からの学びを叡智として広げるとか、変革に向けてリーダーシップを発揮するといった右脳的なスキルだと思います。それをつくり出すのが、まさに「あのときのあれ」といったストーリーや、心理的に安全な場での共有経験ですよね。

長谷川

例え全部がコンピューティングで代替されても、時間は流れ続けます。その過ぎていく時間に、どういうストーリーをつけられるかを楽しんでいくのが人間の営みだと思うんですよね。もしかしたら、自分のテリトリーに一生じっとしている人もいるかもしれませんし、会社の歯車として終わる人生もあるかもしれません。でも、それも1つのストーリーです。それがどんなものであっても、自分のストーリーに自信を持つことが重要かなと。

佐々木

歯車で終わってもいいという価値観は面白いですね。お互いが認め合えば、それが価値になるのだから、みんなのストーリーをポジティブに捉えて積み重ねていけば、何か生み出せる気がしますね。そういう価値観が42 Tokyoを通じて日本に広まったとき、どんな面白いことが起きるのか、とても楽しみです。

長谷川

佐々木さんから日本でもポジティブな芽が出てきているというお話を伺い、自分が日本社会に感じていたことが間違っていなかったと確信し、安心しました。今晩布団で寝るときは、きっと幸せを感じられると思います。

対談を終えて

佐々木

デジタル時代を生き残るには、常に新しいスキルを学習し続けるマインドセットが欠かせません。さらに、組織の枠を超えて多様なマインドセットを持つ人たちとのリレーションシップを構築し、行動を通じてトライアンドエラーを繰り返すことも必要です。この「スキル」「マインドセット」「リレーションシップ」「行動」という4つが、変化の激しい時代を乗り切るための要件だと考えています。
42は左脳的なプログラミングスキルを教える学校に見えますが、そのカリキュラムは完全に、こうした右脳的スキルを身につけさせることに重点を置いています。加えて、42は最後までやりきることを求め、やりきれば必ず成果が出ると実体験させています。体験とストーリーを通じて、デジタル時代に求められる力を身につけた人材を輩出する42が日本で開校したことに、未来への希望を感じます。

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長谷川文二郎氏×佐々木亮輔対談【前編】革新的教育機関「42」が提案する新しい学びの形

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長谷川文二郎氏×佐々木亮輔対談【前編】革新的教育機関「42」が提案する新しい学びの形

近藤 洋祐 氏の写真
長谷川 文二郎 氏Bunjiro Hasegawa

一般社団法人42 Tokyo
事務局長

1995年生まれ。高校卒業後、寿司屋や植木屋などさまざまな仕事を経て、DMMアカデミー1期生としてDMM.comへ入社。その後、同アカデミーの運営に携わる中で「42」を知ったことをきっかけに、フランスの42パリ校へ入学。現在、DMMにて一般社団法人42 Tokyoの事務局長を務める。

北川 友彦の写真
佐々木 亮輔Ryosuke Sasaki

PwCコンサルティング合同会社
パートナー
組織人事・チェンジマネジメント

20年以上にわたり日系グローバル企業の本社と海外拠点において日本人および外国人経営幹部を巻き込む変革コンサルティングに従事。本社機能の再編、地域統括会社の機能強化、バックオフィス機能の組織再編と業務改革、海外営業組織の再編と能力強化、M&A(DD/PMI)、海外経営幹部の選抜と育成、チェンジマネジメント、組織文化改革など国内外のさまざまな変革プロジェクトの経験を持つ。シンガポールとニューヨークでの駐在など海外経験が豊富で、日本だけでなくアジアや欧米のベストプラクティスに精通している。タレントマネジメントやチェンジマネジメントに関する講演や寄稿も多数。

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