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北川 友彦Tomohiko Kitagawa
PwCコンサルティング合同会社 Strategy& ディレクター
近藤 洋祐 氏Yosuke Kondo
株式会社 電脳交通 代表取締役社長
阿部 健太郎Kentaro Abe
PwCコンサルティング合同会社 Strategy& シニアマネージャー

2020年04月13日

後編近藤洋祐氏×北川友彦×阿部健太郎鼎談 タクシー業界の救世主が挑む、
脱・属人化と新時代のタクシーの姿

クラウド型タクシー配車システムによる効率性と利便性の向上、さらにはMaaSとその先の地域活性化を見据えた施策を次々と打ち出す、株式会社電脳交通の近藤洋祐氏。ベテラン配車担当者のノウハウを落とし込んで開発された自動配車システムは、バスや鉄道など他のシステムとの接続性も考慮されており、現在はJR西日本のMaaSアプリ「setowa」との連携が行われているほか、物流業界からの注目も高まっています。近藤氏と、企業の事業戦略や次世代モビリティ戦略の策定など豊富な経験を有するPwCコンサルティング合同会社、Strategy&の北川友彦、阿部健太郎による鼎談の後編では、電脳交通が実現しうる新時代のMaaSや、新しい仕組みづくりによってタクシー業界が担える役割といった議論が行われました。地域社会の課題解決に向けた新しい発想、さまざまな示唆が見つかるはずです。(文中敬称略)

属人的なオペレーションをシステム化し、ドライバー不足にも対応

近藤

タクシードライバーをしていた25歳のとき、水曜日の決まった時間に必ず予約をくれる高齢の女性のお客様がいました。1人暮らしで、家族は離れたところで暮らしているなど、私の頭の中には、その方に関する相当のプロファイルがたまっていました。予約の時間に1秒でも遅れたら連絡がくるような几帳面な方で、孫ほどの年齢の私をかわいがってくれていました。あるとき、別のドライバーが予約の時間に行っても、そのお客様が姿を見せなかったと会社に戻ってきたのですが、たまたま会社にいた私は、嫌な予感がしてすぐに女性の家に向かいました。絶対にドライバーを待たせる人ではないと分かっていたからです。家に入ってみると、女性はすでに亡くなっていました。亡くなった直後だったらしく、後でご家族からとても感謝されました。このときは、私がたまたま顧客のことを知っていて、たまたま社内にいたから素早く対応することができましたが、これを機に、そうした偶然性や属人性に頼るのはよくない、仕組みでカバーする必要があるのではないか、と考えるようになりました。そんな思いが、電脳交通立ち上げの背景にあります。

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阿部

近藤さんの頭の中に、顧客のデータベースがきちんとあったということですね。ただ、そうしたデータをすべてのドライバーが持ち合わせているわけではありません。これを共有することができれば、他のドライバーでも近藤さんと同じような行動をとれるようになる。そうした発想で、配車システムをつくられたのですね。

近藤

はい。タクシー会社の営業オペレーションは、非常に属人的なんです。配車担当者が頭の中でシミュレーションして、状況に応じてドライバーをマッチングしながら効率よく回していく。ほとんど神業のようなのですが、それでは再現性がないので、ベテラン配車担当者のノウハウを落とし込んで、ワンクリックで配車が可能になる自動配車システムを開発しました。

阿部

ノウハウが属人化してしまうというのは他の業界でもよく聞かれる課題ですが、それをITを駆使して解消されたのですね。

近藤

はい、実は当社のシステムを物流会社の関係者に説明する機会があったのですが、物流でもどうやらオペレーションがとてもよく似ているそうで、「このシステムをそのまま使いたい」と言われました。物流の知識はあまりなかったので驚きましたが、これを機に私の中で関心が広がりました。今後の日本の交通を考える上で、貨客混載は重要なテーマの1つです。物流と旅客の事業者が協業すれば、リレーして運ぶこともできる。貨客の境界線をファジーにすることで、生産性向上の可能性が見えてきます。こうした点でも、日本には世界をリードしうる環境があると感じます。タクシーも物流も深刻なドライバー不足で、ソリューションを検討せざるをえない状況が生まれているからです。

北川

ドライバー不足は、ユーザーの1人としても気になるところです。多くのタクシー会社は基本的にフルタイムの運転手を抱えていますが、固定費の比重が大きく、需要の増減に対して柔軟なリソース調達が難しいですよね。免許の問題などをクリアする必要はありますが、電脳交通のシステムを活用すれば、例えばパートタイムのドライバーに乗務してもらって、ドライバーの経験不足をシステムからの情報でサポートするといったことも考えられると思います。ドライバー不足という課題を解決するためには、貨客の境界線と同様にフルタイムとパートタイムの境目をファジーにして人の有効活用を図るというアプローチもあるのではないでしょうか。

近藤

おっしゃる通りで、今後はそのような議論にも踏み込む必要があると思います。

長年の知恵とノウハウを集積した「タクシー業界のウィキペディア」

近藤

「タクシー業界のウィキペディア」──。当社のシステムを、私はそんなふうに表現することがあります。全国各地のタクシー会社と交流する中で、「うちの会社ではこういうオペレーションをしています」と聞き、「それいいですね」となると、そのノウハウをシステムに導入する。こうしたアップデートを繰り返してきました。タクシー業界の関係者が長年積み重ねてきた知恵をお借りして、全国のタクシー会社が使えるようなシステムとして提供するというのは、ユーザーが知識を共有するウィキペディアと同じ発想です。

北川

なるほど。それはデータの活用という観点でも有望ですね。タクシー会社1社だけならデータ収集に限界がありますが、全国各地のデータを蓄積すればさまざまな傾向が見えてくるのではないでしょうか。

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近藤

確かにそうですね。データの活用方法にも地域性があります。例えば、当社のシステムではデータに基づく需要予測が可能なのですが、季節や時間帯、天候などをもとに過去の実績を踏まえて需要が見込めるエリアを推奨するといったサービスは、流し営業の多い都市部向けです。一方、地方では需要に合わせたシフト管理に活用できます。タクシー会社はすべての時間帯に十分なドライバーを確保するのが難しく、需要のあるときにドライバーの人数が足りていないというケースが多い。データを見てみると、実際には一晩に数万円もの取りこぼしが発生していることもあります。全国には今も黒電話で注文を受け付けて、メモや手書きのノートで業務を回しているタクシー会社が少なくありませんが、これでは機会損失の金額までは把握しにくいでしょう。データを蓄積することで見えてくるものは非常にたくさんあります。

北川

ある地域で得られたデータパターンを他の地域に活用するという可能性も出てきますね。

近藤

その通りです。私はタクシー業界の次の大きなテーマは事業統合やM&Aだと考えているのですが、そこでもやはり「ウィキペディア」のようなシステムが効果を発揮します。統合によって地域をまたいだ運行管理が必要になってくると、それぞれの地域性の高い情報をデータとして共有できることが大いに役立つのです。例えば、お客様からは「昔○○商店だったところ」という具合に場所を指定されることがありますが、そんな情報はグーグルマップやゼンリンの地図には載っていないので、普通のカーナビでは対応できません。そこで、困ったときに各地域のドライバーをつないで教えあう仕組みをつくりました。すると、地元のタクシー会社の誰かが「○○商店はコンビニになっているよ」と教えてくれたりする。こうしたフィードバックを集めて、時間を遡った情報を含めて詳細なデータベースづくりを進めています。すでに数千件のデータを蓄積していて、他のタクシー会社にも公開しています。

阿部

時間軸を入れた地図づくりはとても面白い取り組みですね。

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北川

普通の地図にはない情報を活用することで、観光資源化にもつながるかもしれません。この場合、仕組み自体に地域性を持たせる必要はなくて、共通化した仕組みの上にローカル情報を載せるということですね。

近藤

おっしゃる通りです。

阿部

タクシー業界内だけでなく、鉄道会社のような他の事業者と連携してデータを使うこともできるのではないでしょうか。シンプルな例で言えば、電車が遅延しているからタクシーの需要が高まるといったケースがありますね。共通化した仕組みがあれば、他分野の事業者との連携を含めて拡張性を持たせやすいですね。

近藤

それについても、当社のシステムは鉄道会社など他のシステムとの接続を意識しています。従来、タクシーの車内には料金メーターや決済用の端末、カーナビなどさまざまなデバイスがありましたが、これらをオールインワンにする仕組みを開発しました。その先にはバスや鉄道などと連携した決済や予約などのサービスを見据えていて、現在は当社の株主でもあるJR西日本が瀬戸内限定で提供しているMaaSアプリ「setowa」との連携を実現しています。こうした「タクシー業界のOS」のような機能を果たすシステムはこれまでになかったので、その点でも各社から注目していただいています。

新しい時代のタクシー会社の役割・あるべき姿を追求するための議論を

阿部

冒頭で会社を引き継いだ当時の話をうかがいました。デジタル化やMaaSへの取り組みが求められる一方で、タクシー業界においては事業継承に関わる課題も大きいのではないかと思います。

近藤

そうですね。私たちのこれまでの取り組みは主に地域交通の課題に向き合うものでしたが、本当に目指すべきは先ほど述べた事業統合のほか、ドライバーの採用への貢献や会社の売上向上など、業界全体を持続可能なものにしていくためのアップサイドの議論だと思っています。タクシードライバーの平均年齢は60歳を超えています。このままではあと10年持つか持たないか。しかも平均年収は低く、徳島県では200万円を下回っています。これでは、持続可能なビジネスとは言いがたい。若い人たちを引き寄せるためには、収入レベルをもっと高める必要があります。そこで、タクシー会社がハイエンドのサービスを手掛けやすくする仕組みを提供しようと準備を進めています。タクシー会社が高級車を安く購入できる仕組みをつくり、その運行管理を当社が受託して窓口を一本化し、電話やアプリで予約を受け付けます。このようなサービスを導入すれば、若いドライバーが地方で就職する動機づくりにもつながるのではないかと考えています。

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北川

タクシー会社が地域の中で違う存在に変わっていくということですね。ハイエンドサービスだけでなく、貨客混載、地域コミュニティーとつながる移動のコーディネーターなど、今日うかがったさまざまな新しい取り組みを通じて、街を活性化させるプロデューサーのような役割が果たせるのかもしれません。電脳交通のサービスを活用して各地域のタクシー会社がパワーアップし、マイナスからゼロへ、さらにプラスの価値を生み出すべくチャレンジする。そんな未来を早く見たいですね。

鼎談を終えて

北川

コストコントローラーの話を特に興味深くお聞きしました。移動コストを変動させることで、移動目的を変え、地域経済の活性化にも役立てることができる。こうした取り組みを進めるためには、移動サービスだけで完結するのではなく、移動先の売上向上や効率化などと組み合わせたモデルづくりがカギになると思います。例えば、ショッピングモールや病院など移動先の経済性がアップすれば、効果の一部を移動費用に充てることも可能でしょう。そうすれば移動先の生産性や売上は向上し、利用者の移動費用を安くすることもできます。多様なプレイヤーを巻き込んだ新しいモビリティのモデル、あるいは地域社会のモデルづくりに、私たちも貢献していきたいと考えています。

阿部

究極的には、遠隔コミュニケーションによって移動しなくてすむ世界も考えられるでしょう。ただ、近藤さんとのお話を通して、移動がもたらす価値を再認識することができました。地域に欠かせない人の移動をいかに支えるかを検討する、広範な議論が必要だと感じています。私たちも引き続き、こうした議論に参加して日本の地域社会のあり方を考えるとともに、積極的に提案活動を行ってまいります。

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近藤洋祐氏×北川友彦×阿部健太郎鼎談【前編】徳島から世界へ。電脳交通が描くMaaSとその先の未来

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近藤 洋祐 氏の写真
近藤 洋祐 氏Yosuke Kondo

株式会社 電脳交通
代表取締役社長

1985年徳島県生まれ。2007年インディアンヒルズ・コミュニティカレッジ(IHCC)卒。祖父が経営する吉野川タクシー有限会社のタクシードライバーとして勤務後、2012年同社の代表取締役社長に就任。徳島県で唯一の外国人通訳サービスや、県内初の妊産婦向け送迎サービス「Limoマタニティタクシー」、インターネット経由で配車を行う「クラウドタクシー配車」などさまざまな革新的サービスを展開。2015年「クラウド型タクシー配車システム」を開発・提供し、各地のタクシー配車業務代行も請け負う電脳交通を設立。2020年2月現在で同社のシステムは、北海道から熊本まで全国20地域のタクシー会社に導入されている。

北川 友彦の写真
北川 友彦Tomohiko Kitagawa

PwCコンサルティング合同会社
Strategy&
ディレクター

PwCコンサルティングの戦略コンサルティング部門であるStrategy&のディレクター。機械製造業や部品・素材などの産業財分野を中心に、事業戦略、営業・マーケティング戦略、組織・オペレーション改革などのテーマについて、多様なコンサルティング経験を有する。また、バンコクオフィスでの勤務経験も有し、東南アジアにおける日本企業の進出・拡大のサポートを積極的に行っている。東京大学経済学部卒業。コロンビアビジネススクールMBA。

久保田 正崇の写真
阿部 健太郎Kentaro Abe

PwCコンサルティング合同会社
Strategy&
シニアマネージャー

PwCコンサルティングの戦略コンサルティング部門であるStrategy&のシニアマネージャー。次世代モビリティ事業企画・実行支援、海外進出支援を中心に、業際領域において多様なコンサルティング経験を有する。大手自動車メーカー経営企画部門出向経験、東南アジア駐在実績を有し、ハンズオンの支援も豊富に行っている。米系コンサルティングファームを経て現職。東京大学工学部卒、同大学院新領域創成科学研究科修了。

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