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北川 友彦Tomohiko Kitagawa
PwCコンサルティング合同会社 Strategy& ディレクター
近藤 洋祐 氏Yosuke Kondo
株式会社 電脳交通 代表取締役社長
阿部 健太郎Kentaro Abe
PwCコンサルティング合同会社 Strategy& シニアマネージャー

2020年03月30日

前編近藤洋祐氏×北川友彦×阿部健太郎鼎談 徳島から世界へ。
電脳交通が描くMaaSとその先の未来

倒産寸前の小さなタクシー会社の業績をV字回復させ、現在はクラウド型タクシー配車システムなどの全国展開を推進する経営者がいます。徳島県に本社を置く株式会社電脳交通の代表取締役社長、近藤洋祐氏です。自家用車以外のすべての交通手段による移動をサービスとして捉える「MaaS(Mobility as a Service)」が注目される昨今、一方で、IT化に乗り遅れた地方の交通機関は衰退を続けています。そのような中で同社は、全国各地のタクシー会社はもちろん、鉄道事業者や通信キャリアなど異分野の企業や自治体を巻き込みながら、次世代の移動(モビリティ)のあり方を模索・提案しています。地域社会の課題を解決する徳島発のイノベーションは、同じ課題を持つ国内ひいては海外の交通事業者をリードする存在となるのか。企業の事業戦略や次世代モビリティ戦略の策定など豊富な経験を有するPwCコンサルティング合同会社、Strategy&の北川友彦、阿部健太郎が、近藤氏とともに「地域社会に果たすべきMaaSの役割」をテーマに語り合いました。(文中敬称略)

ドライバーとして痛感した地方のタクシー業界の切実な課題

北川

電脳交通のクラウド型のタクシー配車システムとコールセンター委託サービスが、全国のタクシー会社で採用されていますね。タクシー会社が他のタクシー会社にサービスを提供するというのは非常に画期的です。

近藤

ありがとうございます。日本には今、6,300弱のタクシー会社があります。大都市ぐらいでは流し営業が主軸だと思いますが、地方ではまったく異なり、電話でタクシーを呼ぶケースが多い。地方のタクシー会社の売上の8~9割は電話注文で支えられているんですよね。電話を受け付けるコールセンター部門はどの会社にもありますが、業務内容はまったく同じで、課題も共通しています。それならば「みんなで一緒にやりましょう」ということで、タクシー会社の配車を一元管理するシステムとコールセンターの仕組みをつくりました。これが、当社の最初のプロダクトです。

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北川

そのお話をうかがって、10年以上前のコンサルティング経験を思い出しました。クライアントは建設機械レンタル事業者で、複数の県に展開する営業所がそれぞれコールセンターを持ち、業務の多くを人の手によって管理していました。そこで、私たちは「リモートでできる業務を中央に集約し、かつ徹底的にIT化をしましょう」と提案したのです。これを実行した結果、クライアントのコスト競争力は大きく高まりました。ただ、こうしたアプローチをプレイヤーの多いタクシー会社間で展開するのは相当難しいと思います。

近藤

そうですね。地方のタクシー業界の課題として、ドライバー不足や高齢化、後継者難といった課題があります。一方で、人口減少が続く中で、地域の交通インフラをいかに維持するかという社会的な課題もあります。配車アプリのようなデマンドサイドのサービスは数多く登場していますが、交通インフラを維持するためにはサプライサイド、つまりタクシー会社が直面する課題に向き合う必要があると私は考えています。

阿部

なるほど。私たちは官公庁向けの調査なども行っており、全国各地域のマクロデータを収集・分析していますが、そこからも、地域によってはバスなどの公共交通機関の維持が難しくなりつつあるという現実が見えてきています。高齢者の移動手段として、タクシーの重要性は今後さらに増すでしょうね。

北川

私は富山県の出身なのですが、たまに実家に帰るとバスの本数がだんだん減っていたりして、地方における移動の課題を身をもって体感しますね。一方、コンサルタントとしてMaaSやモビリティ関係のテーマに取り組むことも増えていて、例えば海外のMaaS先進事例の考え方や技術を日本企業にどう導入するかを検討するプロジェクトなどに携わっているのですが、地方交通となるとビジネスとしての将来性が見えにくいこともあり、なかなか難しい。電脳交通の事業を知ったときには、課題解決への道筋が開けたような気がしました。

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近藤

でも実は、事業立ち上げの当初から「地域社会の課題を解決したい」といった明確なビジョンがあったわけではないんです。都道府県別に見ると、徳島県のタクシー市場規模は全国最小です。当社ももともとは徳島市内の家族経営の小さなタクシー会社でした。祖父が経営者で、祖母と母親が事務員です。祖父母の体力も落ちて「もうやめようか」などと話をしているころ、私が実家に戻って、母親が社長を継いで会社を続けることになりました。母親の苦労する姿を間近で見ながら、私は1人のタクシードライバーとして地方のタクシー会社が抱える課題を、実際の業務を通してきわめて鮮やかに体感しました。「このままではダメだ」と思いつつ社内で日々悶々とし、何をすべきかを考え、1日1日を必死で生きてきたら、その結果として配車システムのようなものが生まれたというのが私の実感です。

移動の先の体験に目を向けることで地域を活性化する

阿部

私も祖母が愛媛県八幡浜市に住んでいるので地方の状況を体感する機会があるのですが、郊外の道路が整備され、新しい商業施設ができたことで住民がそちらに流れ、かつて賑やかだった地域の人通りが少なくなりました。人の移動と街の賑わいはリンクしていますよね。免許証を返納して自家用車を手放す高齢者の増加が予想される中で、いかに地域の活性化を図るか。ポイント・トゥ・ポイントの移動ニーズに対応するタクシーの可能性に注目しています。

近藤

おっしゃる通り、人の移動の先には何かしらの体験がありますから、移動と体験をいかに組み合わせるか、移動の動機をどのようにつくるかを考えることが、コミュニティーの活性化につながります。これまで地域ごとの点の議論だったものを、移動という軸を加えれば線や面でつなげられる。交通の仕組みにはそうした観点からも地域の課題解決ができると思っています。

阿部

地域課題解決に向けた具体的な取り組みの事例があれば教えてください。

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近藤

NTTドコモや地元のタクシー会社と協力し、2019年3月に山口市阿東地域で行ったタクシー運行の実証実験を紹介しましょう。地域の人口は数千人。自治体が運行していたコミュニティーバスは高コストで、議会でも運営が問題視されるようになっていたため、自治体から交通手段を何とか維持したいという相談がありました。そこで、8日間限定で3台のタクシーを貸し切り状態にし、地域住民に無料で開放したんです。タクシーの利用を集計すると、延べ人数で従来のバス利用者数の約6倍の住民がタクシーを利用しました。その結果、スーパーマーケットで買い物をするなど、皆さんがその地域でお金を使う機会も増えました。自治体にとっては、わずかながら税収も増えます。フリーライドのタクシーを8日間走らせたコストを1年間で見積もると、コミュニティーバスの運行コストの半分ほど。すべてのステークホルダーがメリットを享受することができたと言えます。

北川

素晴らしい試みですね。おそらく地域経済の活性化だけでなく、住民のコミュニケーションが増えるなど経済以外の効果もあると思います。単なる人の移動にとどまらない点が新鮮です。コミュニティーにとって、人の移動は血液のようなものですよね。血液循環がよくなれば景気も上向くでしょうし、地域住民の健康増進にも役立つはずです。

「移動×○○」から生まれる持続可能な地域交通のあり方

近藤

この実証実験の結果、無料というところまで振り切ると人の移動が活性化するというファクトが手に入りました。移動コストの調節により、人の移動を活性化させることができる。コストコントローラーを介在させれば、いろいろなことができると気づきました。そのために専用のシステムをつくる必要はなく、タクシーという既存のインフラと当社の配車システムをそのまま活用すれば、低コストで済みます。われわれはこうした持続可能な地域交通のあり方を模索していますが、その先にある「移動×○○」の事業づくりがこれからのMaaSの本論だと思っています。それには、企業や行政、大学など多様なプレイヤーとの協業が不可欠です。

阿部

コストコントローラーという概念はとても面白いですね。無料で6倍だったのなら、半額なら需要はどう変化するのか。自治体の財政事情なども勘案しつつ、地域ごとの最適解に近づけるというアプローチもあるでしょう。持続可能性を高めるためには、財政負担はできるだけ小さいほうが望ましい。その意味でも、この先にある「移動×〇〇」という、移動目的との掛け合わせによる事業づくりというのは非常に重要だと思います。

近藤

実証実験では計8日間の7時~19時を無料の時間帯としましたが、時間帯を変えれば別の結果が出るはずです。「この場所に行く人には、この時間帯の利用が無料になります」といった条件設定をすれば、移動の目的をつくることもできるでしょう。特定の場所はショッピングモールでもいいし、病院でもいい。病院に行くなら10時~11時が無料、ショッピングモールなら13時~14時が無料といった設定をして、対象施設にとって都合のよい時間帯に住民を届けることができれば、繁閑の平準化や生産性の向上にもつながります。移動体験とコストをパッケージ化して見せ方を変えるだけで、人の移動の動機をつくることが可能になるんですよね。

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北川

移動先の効率化まで視野に入れると、いろいろな可能性が生まれてきますね。私は政府関係のプロジェクトにも携わっていますが、日本には移動弱者の問題や高齢者の運転の安全性の問題など、高齢化社会ならではの交通課題が数多くあります。そうした課題へのソリューションとしてモビリティをどう生かしていくかという点でも、ヒントになるお話です。

近藤

交通機関がなくなったり、不便になったりすれば、人は必要最小限の移動しかしなくなるでしょう。それでは、地域の経済や社会が成り立たなくなってしまいます。日本は少子高齢化という課題の先進国ですから、少ない資源で人の移動をどう活性化させるか、持続可能なモデルをつくるために多くの関係者がさまざまな努力を続けていますが、こうした取り組みの中から、世界最先端のソリューションが生み出されていくかもしれませんね。

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近藤洋祐氏×北川友彦×阿部健太郎鼎談【後編】タクシー業界の救世主が挑む、脱・属人化と新時代のタクシーの姿

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近藤洋祐氏×北川友彦×阿部健太郎鼎談【後編】タクシー業界の救世主が挑む、脱・属人化と新時代のタクシーの姿

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近藤 洋祐 氏Yosuke Kondo

株式会社 電脳交通
代表取締役社長

1985年徳島県生まれ。2007年インディアンヒルズ・コミュニティカレッジ(IHCC)卒。祖父が経営する吉野川タクシー有限会社のタクシードライバーとして勤務後、2012年同社の代表取締役社長に就任。徳島県で唯一の外国人通訳サービスや、県内初の妊産婦向け送迎サービス「Limoマタニティタクシー」、インターネット経由で配車を行う「クラウドタクシー配車」などさまざまな革新的サービスを展開。2015年「クラウド型タクシー配車システム」を開発・提供し、各地のタクシー配車業務代行も請け負う電脳交通を設立。2020年2月現在で同社のシステムは、北海道から熊本まで全国20地域のタクシー会社に導入されている。

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北川 友彦Tomohiko Kitagawa

PwCコンサルティング合同会社
Strategy&
ディレクター

PwCコンサルティングの戦略コンサルティング部門であるStrategy&のディレクター。機械製造業や部品・素材などの産業財分野を中心に、事業戦略、営業・マーケティング戦略、組織・オペレーション改革などのテーマについて、多様なコンサルティング経験を有する。また、バンコクオフィスでの勤務経験も有し、東南アジアにおける日本企業の進出・拡大のサポートを積極的に行っている。東京大学経済学部卒業。コロンビアビジネススクールMBA。

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阿部 健太郎Kentaro Abe

PwCコンサルティング合同会社
Strategy&
シニアマネージャー

PwCコンサルティングの戦略コンサルティング部門であるStrategy&のシニアマネージャー。次世代モビリティ事業企画・実行支援、海外進出支援を中心に、業際領域において多様なコンサルティング経験を有する。大手自動車メーカー経営企画部門出向経験、東南アジア駐在実績を有し、ハンズオンの支援も豊富に行っている。米系コンサルティングファームを経て現職。東京大学工学部卒、同大学院新領域創成科学研究科修了。

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