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奥野 和弘Kazuhiro Okuno
PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
青木 雅人 氏Masato Aoki
株式会社博報堂DYホールディングス
マーケティング・テクノロジー・センター 室長

2020年02月17日

生活者目線のマーケティングと
個人情報保護の両立で
安全・安心なデータ活用を実現する

顧客が求める製品やサービスを提供するためのマーケティング戦略。そこでは、パーソナル化されたデータに基づく、一人ひとりに最適化された提案が求められている。そのカギを握るのが、さまざまな生活者のデータだ。しかし、個人情報保護やプライバシーの問題などにより、その活用は十分には進んでいない。
これからのマーケティングを考えたときに、個人データの活用は大きな効力を持つ。では、どのようにして個人データを活用すればよいのか。早くから「生活者視点」のマーケティングを取り入れてきた博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター 室長の青木雅人氏と、顧客接点業務からバックオフィス業務まで幅広いデータ活用提案に携わるPwCコンサルティングの奥野和弘が安全・安心なデータ活用について議論を交わした。

多様化・変化し続ける生活者の実態をどのように捉えるか

少子高齢化による人口減少が日本企業のマーケティングのあり方を変えている。今後も人口減少は続き、日本企業は限られたパイを奪い合うことになる。「ディスラプター」と呼ばれる、デジタル技術を駆使した新規参入も増えていくことだろう。企業は激化する競争の中で、潜在需要をどのように発掘すればよいかを問われている。

世帯構造の変化も企業に大きな影響を及ぼすと見られる。人口問題研究所によれば、2020年には一人暮らし世帯が約35%、夫婦だけの世帯が約20%を占めるようになり、いわゆる「夫婦と子ども2人」という標準世帯の概念が崩壊する。「全体のパイが増えずに世帯が多様化する中、消費者の嗜好も細分化されています。企業はターゲットごとのニーズを的確に捉えたマーケティングを展開する必要があります。そこで重要になるのが『生活者視点』です」と博報堂DYホールディングスのマーケティング・テクノロジー・センター室長の青木雅人氏は語る。

「これまで企業は、市場調査やアンケート調査といった手法で消費者のニーズを捉えてきました。しかし、もはやそのやり方だけでは実際の生活者の姿を捉えられなくなっています。デジタル化によって、個人の趣味やコミュニティ、家族の中での立場、生活地域や信条など、従来では考えられなかったほど多くの生活者情報を、SNSなどを介してデータで取得することが可能になりました。企業もそうしたデータを活用し、生活者の視点に立ったマーケティングをする必要に迫られています」(青木氏)

PwCコンサルティングのディレクターの奥野和弘も「情報があふれる現代においては、マーケティングメールを送るにしても、年齢や属性、地域などに応じて適した内容をピンポイントで送らなければ開封されません。同じ情報を不特定多数に発信するアプローチから、一人ひとりに刺さるアプローチへの転換を余儀なくされているのです」と指摘し、青木氏の見解を支持する。

青木氏は「生活者視点」の例として、「母の日」における消費行動を挙げる。「『母の日』のスーパーマーケットのチラシでは、これまではカレーを訴求するチェーンが多く見られました。子どもたちが手づくりカレーで母を労う、というステレオタイプがあったからです。ところがスーパーマーケットのPOSデータを見ると、実際のところカレーがそれほど売れないお店も存在しています。SNSにおける母の日に関する書き込みを分析したところ、実は花束や寿司、外食など、ちょっとリッチな祝い方で、夫が子どもたちの母親でもある妻に感謝を示していることが分かりました。生活者の実際の行動をリアルタイムで知り、マーケティングのアプローチを変化させる。デジタル時代ならではのアプローチといえるでしょう」(青木氏)

データを活用して消費者の生の声を集められることは、企業にとってビジネスチャンスにつながる。奥野は、従来のアナログなリサーチに時間を割いていては消費者の変化するニーズに対応できないという前提のもと、「変化・多様化に早く気づいて対応すれば競争優位が生まれます。スマートフォンの普及やIoT(Internet of Things)によって、私たちの生活そのものから大量のデータが生まれています。それらのデータをつなげば、ライフスタイルの全体像が見えてくるかもしれません」と今後のマーケティングの可能性を示唆する。

仮想個人を活用して匿名性を担保する

これからのマーケティングで、個人情報を含めたデータの活用がより重要になるのは明白である。しかし、「政府は『Society 5.0』を掲げ、DFFT(Data Free Flow with Trust)、すなわち信頼できるデータ流通による経済発展を目指していますが、実際には企業内外のデータ活用が進んでいない、との声をよく聞きます」と青木氏。個人データを利活用することと、個人データの保護が相反するからだ。

「データ同士をつなぐことは有用ですが、それにより個人の特定性は高まります。この課題を解決できる手法はないのでしょうか」。奥野の問いかけに対し、青木氏は博報堂DYホールディングスの取り組みを紹介する。それは、特定の個人データを使用するのではなく、似たような人のデータを集めて「仮想個人」をつくり出すというアプローチである。

「当社では『生活者データ・マネジメント・プラットフォーム(生活者DMP)』という独自のプラットフォームの構築に取り組んでいます。そこでは消費者の購買データのほか、屋外での行動ログ、ウェブ上でのオンライン行動ログ、テレビの視聴ログ、アンケート調査などを取り込み、生活者の分析を行います。そのような生活者データの中から、類似した人をグルーピングした仮想個人をつくり、その仮想個人のデータを外部データとの統合に利活用するのです。似たような個人の情報を集めてグルーピングしているので、パーソナルな情報にはならず、個人が特定されることはありません。さまざまなデータを横断して生活者を捉えられるだけでなく、企業が保有するデータと連携させれば、その企業に有益なデータとして提供することができるようになります」(青木氏)

ここでは「k-統計化&データフュージョン」という、個人データを仮想個人化した上でデータを統合する技術が用いられている。仮想個人の統計データを有効に活用することで、鮮明なプロファイルを保持することができる。この技術に関しては、情報法の専門家からも、ある目的のために収集した個人データを他のデータとマッチングさせて別の用途に流用する「名寄せ」とは異なり、適法性が高い処理と評価されている。奥野は「データの解像度を落とすことなく、匿名性を担保できる手段は必要」とし、個人情報保護・プライバシー保護に配慮したマーケティング手法としてこの取り組みを評価する。

k-統計化×データフュージョンの図
図 k-統計化×データフュージョン

テクノロジーによって 安全・安心な活用を実現する

個人情報の開示意識が世界全体に比べて低いといわれる日本。総務省の調査(「安心・安全なデータ流通・利活用に関する調査研究」)によれば、情報銀行(情報利用信用銀行)に対する個人の利用意向の意識も欧米や中国・韓国より大幅に低い。しかし、安全・安心なデータ活用の仕組みが浸透すれば、こうした状況も変わっていくのではないか。青木氏と奥野は共通の見解を示す。

「データを活用することは、例えば高齢者の生活サポートの最適化など、社会課題の解決にもつながります。テクノロジーを活用し、データを安全・安心に活用・提供できるプラットフォーマーとなるよう、これからも尽力し続けます」と青木氏は決意を述べる。奥野も「個人データの活用を進めるには継続的な努力が必要ですが、取り組むだけの価値はあります。PwC Japanグループとしても、個人情報保護法を常にキャッチアップしながら、プライバシー、セキュリティ、クオリティの3つの視点から安全・安心なデータ活用をサポートしていきます」と述べ、議論を締めくくった。

本対談は2019年11月13日に開催した「PwC’s Digital Trust Forum 2019」におけるセッションの内容を再構成したものです。

青木 雅人 氏の写真
青木 雅人 氏Masato Aoki

株式会社博報堂DYホールディングス
マーケティング・テクノロジー・センター 室長

1989年株式会社博報堂に入社後、自動車、コンビニエンスストア、製薬など幅広い業種のマーケティング戦略・事業戦略立案、商品開発を担当。マーケティング局、買物研究所などを経て、2016年4月から現職。データマーケティング、マーケティングテクノロジー領域の研究、ソリューション開発を推進。

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奥野 和弘Kazuhiro Okuno

PwCコンサルティング合同会社 ディレクター

外資系ソフトウェアベンダーやSIerにおいてERP、CRM、Marketing technology、Advertising technology などの提案・導入に従事し、顧客接点業務からバックオフィス業務まで一気通貫のデータ活用提案に強みを持つ。直近では大手航空会社、大手自動車部品メーカー、大手メディア企業などに対し、データドリブンなビジネス課題の解決を支援。

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